20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(2)

2013年05月20日12:00
今月の物語の主人公は・・・
演出家 SPAC- 静岡県舞台芸術センター芸術総監督 宮城 聰(みやぎ・さとし) さん

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(2)  1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。
 07年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、また、静岡の青少年に向けた新たな事業を展開し、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。
◆SPAC公式ウェブサイト http://www.spac.or.jp

※宮城聰さんへのインタビューは6回に分けて公開します。この記事は全6回中の第2回です。 ≫第1回を読む 第3回を読む

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|多様な価値観を許容する場所に、未知なる価値の可能性がある

―文化が根付いた街とは、宮城さんにとってどんなイメージですか?

宮城/劇場があるからといっても、街の人がみんな劇場に足を運ぶわけではありません。それはベルリンフィルでも同じ。劇場やホールが満席になったとしても、実際に生で体験できる人の数は限りがあります。文化が街に根付くということは、そういう直接的な動員だけではなく、例えば、その街でタクシーに乗った時に運転手さんが「今、オペラで〇〇をやっているよ」「この作品は評判がいいね」と話をしてくれるような、そんな場面が街のあちらこちらで交わされるということなのだと思います。

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―身の回りで自然にそのような会話が聞かれる街は、魅力を感じますね。

宮城/少し前まで日本人が海外に行くと、「この日本製のカメラはね」と日本のテクノロジーを自慢できました。素晴らしい文化や高い技術力などが、その国や街の誇りになるのです。

―自分が作ったカメラでもないのに、つい自慢してしまいますね。外国人を相手に日本を代表して話している自分に驚いたり・・・。

宮城/ちょっと誇らしいですよね。もうひとつは、その土地に文化があるということは、多様な価値観が共存することを私たちの街は受け入れますよ、という証明でもあります。その点で、東京の一番の魅力は、物質的な豊かさよりも、おもしろい人、変わった人、マイノリティー・・・、いろいろな種類の人間が暮らしていける、ということになるのではないでしょうか。

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―街の懐の深さを示すメッセージでもあると。

宮城/はい。芸術というのは、これまで美とは考えてられていなかったところに新しい美を発見し、価値を創造する行為です。過去を振りかえってみると、芸術が前に進んだ瞬間にいた人、たとえば、ピカソやストラヴィンスキー、モーツァルトなどは、同時代の人から見れば奇異な人間たちだったわけです。モーツァルトの音楽でさえ、同時代の人たちには耳慣れない音楽だったはずなんです。いつも聞いている音楽とちょっと違うなぁ、心地よくないなぁ、と。

―今だからその評価に何の疑問もありませんが、初めて聞いた人たちは、素直に受け入れられた人ばかりではないでしょうね。生前に評価されなかったゴッホの絵のように。

宮城/そうなんです。新しい美が生まれた時というのは、大半の人々にとって、それはまだ気持ちいいとか、美しいとか、了解していないものなんです。やがて100年、200年と経過していく中で美の領域が広がっていき「こういうところにも美しさがある」「気持ちよさがある」と気づき始める。文化的に先進的な地域というのは、多くの人からはまだここちよく受け入れられてないもの、メジャーでないものでも、わたしたちの街では許容していますよ、ということを示していることでもあるのです。多様な価値観を認めていますよ、マイノリティーの美意識を圧殺していませんよ、ということのアピールになる。人は、そういう寛容な場所に住みたいと願うものではないでしょうか。多様なものが共存できる環境がいちばんの刺激、喜びなんだと思います。

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―県立の劇場と劇団をもっているということは、静岡県民にとって非常に大きなことなんですね。

宮城/そのとおりです。SPACがきっかけになって、先進的な芸術を地域のアイデンティティーの旗印として、日本から世界に打って出て行く流れが静岡県から生まれたのではないかと思っています。

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【お知らせ】

(1)eしずおか内に「SPAC - 静岡県舞台芸術センター」の専用ブログができました! 

SPACのスタッフが、公演情報等をアップしています。ぜひご覧ください。
 ▼SPACブログ 
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(2)2013年6月1日から6月30日まで開催される「ふじのくにせかい演劇祭」。
 インタビューの合間に、宮城さんに見どころを話していただきました!


20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(2) 宮城 「今回ぼくは、ジャン・ルノワールの名作映画に着想を得た『黄金の馬車』という作品を演出します。劇中劇に古事記を取り上げています。室町時代、土佐に旅役者の一座が流れて来て、劇団はその土佐の国司の前で古事記をやることになります。そして国司と女優が親しくなり、政治が混乱してしまうという、老若男女、誰でも楽しめる作品です。

 もうひとつは、ドイツをはじめヨーロッパで大ヒットしたヘルベルト・フリッチュの『脱線!スパニッシュ・フライ』。これはドイツの名優たちによる、体当たりのナンセンスコメディーです。ドイツ演劇というと難しいイメージがありますが、それと真逆をやって大ヒットしました。これまで日本では紹介されていない、注目の作品です。

 最後に、清水港のマリンパークイベント広場で上演される『夢の道化師~水上のイリュージョン』と『ベトナム水上人形劇』もおすすめです。無料の野外公演です。今ヨーロッパで最も注目されている野外パフォーマンスカンパニーと、ベトナムを代表するハノイの水上人形劇団。どちらも、壮大で詩的な水上パフォーマンス。それにベトナム水上人形劇では、三保の松原にちなむ『羽衣』という新作も世界初演されます。この機会に、ぜひご覧ください」

 ▼ふじのくにせかい演劇祭 公式サイト
 http://www.spac.or.jp/fuji2013_index.html



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Posted by eしずおかコラム at 2013年05月20日12:00 | 20.宮城聰さん
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