20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(5)

2013年06月17日12:00
今月の物語の主人公は・・・
演出家 SPAC- 静岡県舞台芸術センター芸術総監督 宮城 聰(みやぎ・さとし) さん

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(5)  1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。
 07年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、また、静岡の青少年に向けた新たな事業を展開し、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。
◆SPAC公式ウェブサイト http://www.spac.or.jp

※宮城聰さんへのインタビューは6回に分けて公開します。この記事は全6回中の第5回です。
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|演劇との出会いは中学時代。向こう側の世界に行ける気がした

―芸術総監督である宮城さんは、演出だけでなく、スタッフの人事、予算管理を含めてすべての責任者です。普段、頭を悩ませるのはどんなところですか。

宮城/創作者としての仕事は、僕がやっていることの50%未満です。一番力を割いていることは、劇場をいかに意味のあるものにするか、ということ。わかりやすくいえば、人間にとって芸術が必要であることを証明したい。現代の世界に、芸術が、演劇が必要とされているのかは疑問のままです。ぼくにもその答えが出ていない。フェルマーの最終定理ではありませんが、ぼくはこの仮説を証明するために人生を使おうと思ったわけです。

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(5)


―演劇との出会いは、中学一年の文化祭で観た野田秀樹さんの芝居がきっかけだったとか。

宮城/たまたま入学した学校の先輩に、後に劇団夢の遊眠社を立ち上げる野田秀樹さんがいました。文化祭で上演した芝居に役者として出演した野田さんの、コンプレックスさえも自己表現にして演じてしまう姿に驚きました。

―それが、演劇に目覚めるきっかけになった。

宮城/彼が文化祭で上演した芝居を後から考えてみると、世界から切り離されて、孤立というか疎外されていた主人公が、なんとかして世界とつながるために、橋を架けようとしている、そう見えたんです。それを切実に、ほとんど滑稽にも思える営みとして、野田さんが演じていた。

―自分の居場所を探して、もがいている。

宮城/実は、ぼく自身、小さなころから自分と世界の間に齟齬を感じていて、周囲に溶け込めていないという感覚があったんです。もちろん友達と楽しく遊ぶこともできるし、毎日それなりに幸せに暮らしているのだけど、こころの奥底では、どこかで周りから浮いている自分を感じていた。そんな感覚を抱えたまま、中学生になったわけです。

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(5)

―野田さんの演じた主人公を、自分のことのように感じたのですね。

宮城/そうです。ただ、向こう側の世界に行きたいと思っても、一気に入ってしまうわけではないんです。橋を架けるようにして、ほとんど惨めともいったような必死さで、何て言えばいいのかな・・・涙ぐましい、少し離れたところからみれば、まさにドン・キホーテのような馬鹿馬鹿しいことにも見える努力をしなければ向こう側へは行けない。中学一年生のぼくは、野田さん演じる主人公のそんな姿に心を動かされたわけです。

―仲間を見つけただけでなく、そんなことも表現できる演劇の世界に自分の居場所を見つけたと。

宮城/そのときは、「どうしてこんなにも野田さんの演技が印象に残ったのだろう」ということを、深く考えることはありませんでした。それに、自分のこころの動きを理解できる引き出しもありませんでした。ただ、ずっとこころの奥底には残っていた。それを自分なりに理解して、自分にできることは演劇しかないんじゃないか、と思えたのが30歳くらいになった頃なんです。ようやく自分が世界とつながって、自分の居場所はここだと思えたのです。

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(5)


―上演する作品を選ぶ基準はありますか。

宮城/静岡芸術劇場は、百貨店を目指しています。東京であれば劇場は無数にあるので、専門店で構わない。

―と、いいますと?

宮城/東京であれば、ある劇場は天ぷら屋で、こちらの劇場は寿司屋、あちらの劇場はそば屋、という店構えが成り立ちます。観客の側が数ある劇場の中から自分の行きたい劇場を選ぶ。でも、静岡では設備が整った劇場は限られていますから、観客は劇場を選べない。専門店としていつも天ぷらばかりを出していては、すぐに飽きられてしまいます。ですから、静岡芸術劇場では、有名な古典作品を見ることができるようにプログラムを考えています。

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―しばらく通えば、演劇の世界が見渡せる。百貨店を最上階から地下まで見て回れば、世の中で求められているモノがわかるように。

宮城/そうです。学校で配られる音楽や美術の教科書には、歴史的に重要だといわれる作品が取り上げられている。もし演劇の教科書というものがあればきっと取り上げられるだろうという作品を上演してみようと思っています。古今東西の作品を、幅広く観てもらえるようにしたいですね。


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【お知らせ】

(1)eしずおか内に「SPAC - 静岡県舞台芸術センター」の専用ブログができました! 

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 ▼SPACブログ 
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(2)2013年6月1日から6月30日まで開催される「ふじのくにせかい演劇祭」。
 インタビューの合間に、宮城さんに見どころを話していただきました!


20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(5) 宮城 「今回ぼくは、ジャン・ルノワールの名作映画に着想を得た『黄金の馬車』という作品を演出します。劇中劇に古事記を取り上げています。室町時代、土佐に旅役者の一座が流れて来て、劇団はその土佐の国司の前で古事記をやることになります。そして国司と女優が親しくなり、政治が混乱してしまうという、老若男女、誰でも楽しめる作品です。

 もうひとつは、ドイツをはじめヨーロッパで大ヒットしたヘルベルト・フリッチュの『脱線!スパニッシュ・フライ』。これはドイツの名優たちによる、体当たりのナンセンスコメディーです。ドイツ演劇というと難しいイメージがありますが、それと真逆をやって大ヒットしました。これまで日本では紹介されていない、注目の作品です。

 最後に、清水港のマリンパークイベント広場で上演される『夢の道化師~水上のイリュージョン』と『ベトナム水上人形劇』もおすすめです。無料の野外公演です。今ヨーロッパで最も注目されている野外パフォーマンスカンパニーと、ベトナムを代表するハノイの水上人形劇団。どちらも、壮大で詩的な水上パフォーマンス。それにベトナム水上人形劇では、三保の松原にちなむ『羽衣』という新作も世界初演されます。この機会に、ぜひご覧ください」

 ▼ふじのくにせかい演劇祭 公式サイト
 http://www.spac.or.jp/fuji2013_index.html




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Posted by eしずおかコラム at 2013年06月17日12:00 | 20.宮城聰さん
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