20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(6)

2013年06月24日12:00
今月の物語の主人公は・・・
演出家 SPAC- 静岡県舞台芸術センター芸術総監督 宮城 聰(みやぎ・さとし) さん

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(6)  1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。
 07年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、また、静岡の青少年に向けた新たな事業を展開し、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。
◆SPAC公式ウェブサイト http://www.spac.or.jp

※宮城聰さんへのインタビューは全6回。この記事が最終回です。
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|演劇鑑賞の楽しみは、ストーリーの理解にあらず

―演劇にもいろいろなスタイルがありますよね。

宮城/古典をやる場合ですと、観客は作品の筋をある程度知っているわけです。だから、筋をそのままなぞるような演出は、「それはわかってるよ」と思われてしまう。それで、劇場側は、観客がその作品をよく知っていることを前提にして作品を解体したりして上演することがあります。

―時間が逆転したり、世界が同時進行したりといった演出ですね。

宮城/でもぼくはこれをしたくないんです。静岡芸術劇場に来てくれる観客の中には、古典作品であっても、初めて観る人がいます。ぼくは、そんな初めてのお客さまを前提に考えています。どんなに有名な作品でも、たとえば「ロミオとジュリエット」であっても、時間軸を逆転させたり、コラージュするということはしないで、この戯曲を生まれて初めて見る人でも分かるようにしたいと思っています。

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(6)

―初めての人でも、安心ですね。

宮城/はい。演劇には必ずミステリーがあって、その謎は見る人ごとに違います。見た後に謎は残るけど、世界で何十万何百万人に観られた作品は、世界の人々の精神的な財産でもあります。静岡芸術劇場は、そのような作品にアクセスできる劇場を目指しています。

―演劇の見方、楽しみ方を教えていただけますか?

宮城/しいて言えば、演劇というのは俳優の身体と言葉の表現です。ストーリーは、観客が身体と言葉の世界をのぞき込むための滑走路みたいなものです。

―身体と言葉の世界に飛び立ってしまえば、ストーリーの役割は果たしたことになる。

宮城/重要なのは「ストーリーがよくわかった、楽しかった」ということではありません。俳優たちの肉体の動きと、発する言葉をしっかりと観てください。いつもは見過ごしている世界をのぞき込む。こういうことはあらかじめ言う必要もなく、いい作品であれば自然に観客はそうしています。

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(6)

|「劇場が好き」ではない人にも、劇場が必要な人がいるかもしれない

―東京からSPACに来られて長く経ちますが、やりたいと思っていたことで達成したこと、そうでないもの、またこれからチャレンジしてみたいものは何かありますか。

宮城/手応えがあったものとしては、先ほどお話しした中高生のための鑑賞事業です。毎年1万5千人の中高生に来てもらうこと。希望者だけが来るのではなく、学校行事としてやって来るわけです。

―全員、強制的に見ないといけないというのがいいですね。

宮城/おそらく、自分から劇場へ行きたいと思っている生徒はほとんどいないでしょう。劇が始まるまでは、無理矢理連れてこられたと感じている生徒が大半です。でもそういう生徒のなかにこそ、かつてのぼくのような子どもがいる気がする。

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―日常の中に居場所がないと感じているような子どもですね。

宮城/劇場に行きたいと自分から進んで手を挙げるような子どもは、すでにチャンネルをどこかに持っている。でも、自分の居場所を探しあぐねているような子どもは手を挙げることはないでしょう。ふつう、劇場には演劇が好きな人しか来ないわけですよ。

―首都圏など人口が多い都市ほど演劇好きな人は多いから、劇場も成り立ちます。

宮城/けれど、自分からは行動を起こすことができない人の中にこそ、本当に演劇を必要とする人がいるかもしれない。だから、演劇を見終わって帰って行く子どもたちの高揚した表情を見ていると、やってよかったなっていつも思います。また、これからのことを言えば、もっとSPACのことを知ってほしい。SPACが劇場外に出るようになったとはいえ、演劇は一回性の生身の肉体での触れ合いですから、同じ時間に同じ場所で出会える人数はどうしても限りがあります。そういうことで、県民の方にもSPACを知らない方、見にきたことがない方もまだまだいます。

―この6月から、「eしずおか」でSPACさんのブログが始まっています。eしずおかブログの読者にメッセージをいただけますか。

宮城/先程申し上げた通り、劇場の外に出て行く活動は年間10回足らずしかできていません。今後はそういう機会を増やしていきたいと思っているので、地域でイベントがあったときはぜひ「eしずおか」を通じて出演依頼をしてください。できるだけ応えたいと思っています。

―SPACの活躍に牽引されて、各地で公立の劇団が誕生してほしいものですね。
今回はありがとうございました。
  (了)

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【お知らせ】

(1)eしずおか内に「SPAC - 静岡県舞台芸術センター」の専用ブログができました! 

SPACのスタッフが、公演情報等をアップしています。ぜひご覧ください。
 ▼SPACブログ 
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(2)2013年6月1日から6月30日まで開催される「ふじのくにせかい演劇祭」。
 インタビューの合間に、宮城さんに見どころを話していただきました!


20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(6) 宮城 「今回ぼくは、ジャン・ルノワールの名作映画に着想を得た『黄金の馬車』という作品を演出します。劇中劇に古事記を取り上げています。室町時代、土佐に旅役者の一座が流れて来て、劇団はその土佐の国司の前で古事記をやることになります。そして国司と女優が親しくなり、政治が混乱してしまうという、老若男女、誰でも楽しめる作品です。

 もうひとつは、ドイツをはじめヨーロッパで大ヒットしたヘルベルト・フリッチュの『脱線!スパニッシュ・フライ』。これはドイツの名優たちによる、体当たりのナンセンスコメディーです。ドイツ演劇というと難しいイメージがありますが、それと真逆をやって大ヒットしました。これまで日本では紹介されていない、注目の作品です。

 最後に、清水港のマリンパークイベント広場で上演される『夢の道化師~水上のイリュージョン』と『ベトナム水上人形劇』もおすすめです。無料の野外公演です。今ヨーロッパで最も注目されている野外パフォーマンスカンパニーと、ベトナムを代表するハノイの水上人形劇団。どちらも、壮大で詩的な水上パフォーマンス。それにベトナム水上人形劇では、三保の松原にちなむ『羽衣』という新作も世界初演されます。この機会に、ぜひご覧ください」

 ▼ふじのくにせかい演劇祭 公式サイト
 http://www.spac.or.jp/fuji2013_index.html




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Posted by eしずおかコラム at 2013年06月24日12:00 | 20.宮城聰さん
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