今月の物語の主人公は・・・
作業療法士 菅原洋平さん
菅原洋平(すがわら・ようへい)。青森県生まれ、静岡県育ち。作業療法士。ユークロニア株式会社代表。
国際医療福祉大学卒業後、作業療法士免許を取得。民間病院精神科勤務後、国立病院機構にて、脳のリハビリテーションに従事。脳の回復には、睡眠が重要であることに着目して臨床実践をする。また、障害者の復職支援を行う中で予防の必要性を強く意識する。
病気予防を面白く魅力的にするため生体リズムを活用して企業の業績を高めるビジネスプランを作成し、SOHOしずおかビジネスプランコンテストにて最優秀賞受賞。その後、ユークロニア株式会社を設立。企業を対象に生体リズムや脳の仕組みを使った人材開発を行う。著書に、『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)、『やる気がでる!超睡眠法』(宝島社)、『誰でもできる!「睡眠の法則」超活用法』(自由国民社)、『「いつも眠い~」がなくなる 快眠の3法則』(メディアファクトリー)。
◆会社HP
ユークロニア株式会社
◆ブログ
作業療法士 菅原洋平の生活術
◆【日刊いーしず】連載
「脳の仕組みを知ればもっとうまくいく! クセ活用術」
※インタビューの聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史さんです。
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|学生時代から、脳の活動を学ぶことに興味がありました
―はじめまして、海野です。今日はよろしくお願いします。
菅原/よろしくお願いします。
(右が作業療法士・菅原さん、左がインタビュアーの海野さん)
―【日刊いーしず】で、菅原さんのコラム「クセ活用術」がスタートしました。連載1回目の登場人物、英子さんにそっくりな社員がわたしの近くにもいますので、想像しながら楽しく読ませていただきました。
菅原/ありがとうございます。「クセ活用術」では、実在の人物に実際に取材して書いているので、リアリティのある内容をお届けできると思います。
―読み終えた後に、「クセ」に対するとらえ方が変わりました。自分の生活習慣を見直すきっかけにもなります。イラスト入りで、さらっと読めるのもいいですね。
菅原/ありがとうございます。「クセ」には、その方の脳の状態が表れています。うまく活用すれば自分のコンディション管理に役立ちます。
―著書も好評で、雑誌の取材も数多く受けていますが、「eしずおか」のユーザーさんの中には、菅原さんについてご存じない方もいると思いますので、自己紹介をしていただけますか。
菅原/はい。職業は、作業療法士です。作業療法士というのは、リハビリテーションの専門職です。作業療法士の資格を取得して、藤枝市の病院の精神科に4年間勤務しました。わたしが作業療法士として活動を始めた頃というのは、脳を画像化できるMRIとCTが普及して、一種の脳ブームが起きた時期でもあります。2000年代初頭の頃ですね。
―藤枝出身の池谷裕二さんが糸井重里さんと書いた『海馬』がヒットしたのが2005年でしたね。茂木健一郎さんの“クオリア”もクローズアップされました。
菅原/医学では、“心はどこにあるか”という命題にずっと取り組んでいるんです。池谷先生や茂木先生は研究者として脳とは何かを考えるのが仕事。一方、臨床医は、脳を治すのが仕事。「心を治せ」といわれても実際に治療対象になる臓器は脳です。
―心を脳から治すということですか?
菅原/そうです。精神疾患は脳の病気だ、というとらえ方もこの時期に広まりました。わたし自身は、脳の活動を解剖によって詳しく学ぶことに学生時代から魅力を感じていました。その分野を実際に扱うのが精神科でしたので、学校を卒業した後、最初に精神科に務めました。その後、国立病院機構に移って、患者さんの脳が外科手術で切り取られた後の再構成をする仕事をするようになったんです。
―ホンモノの脳を使って・・・。
菅原/もちろん。外科手術ですから、患者さんの脳が対象です。
―手術した後の再構成とはどういうことですか。
菅原/脳のある部位を手術によって切り取ることで、失われる機能があります。これをどこの部位で補うかということを考え、実際に機能回復を手助けする仕事です。患者さんの脳の一部を切り取る外科手術をすると、手足が動かなくなったり、変な動きをするなど、いろいろな症状が起こるわけです。作業療法士は、それらの症状がなぜ起きるのか、そこで起きていることはどういうことかを検証しながら、失った機能を、残った脳で補い、もとの状態に近づくようにリハビリテーションするんです。
―手術で病気を治してくれるのは、ひとくくりに“お医者さん”だと思っていましたが、実際には医者と作業療法士がタッグを組んでいるわけですね。
菅原/そうです。作業療法士の仕事は、術前、術後から始まっています。病気を発見して患部を摘出するお医者さんと、失った機能を残った脳でいかに機能回復するかを考える作業療法士が、それぞれの視点から同じ脳を見ているわけです。
―ようやく整理できました。
菅原/国立病院機構というのはサードオピニオン機関といって、国内のほかの病院では対処できないと判断された難しい患者さんが集まる病院です。国立病院機構で8年ほど勉強しながら経験を積んで、2011年に起業しました。
|睡眠を操ることができれば、体の回復に活かせる
―手術に立ち会い、患者さんのリハビリをする菅原さんと、SOHOしずおかのビジネスプランコンテストに参加して、独立起業した菅原さんとの間に、ずいぶん飛躍を感じるのですが・・・。
菅原/いくつかの道のりがあって起業にたどり着いたんです。
―具体的には?
菅原/リハビリテーションの仕事は、基本的に手遅れのところから始まるわけです。どう手遅れかというと、患者さんとは、病気になって、重たい障害をもってからしかお会いできない。常に後手なんです。現場の人間は、“症状が出る前に出会えていれば防げたはず”という患者さんに、たくさん出会います。もっと早くから関われれば・・・、と思いながら、症状が出る前に手助けできない自分たちのポジションに疑念をもっている作業療法士がいっぱいいます。
―菅原さんもそのひとりだったんですね。
菅原/一方で、予防がいかに難しいことかもわかっているんです。元気な状態の人に「あなたは病気になりますよ」と言っても、聞く耳を持っていただけませんよね。余計なお世話。それでは、どうすれば病院に来る前、予防の段階から関われるのか、というのが、わたしの課題になった。
―菅原さんの予防法としての「睡眠」には、どのようにたどり着いた?
菅原/国立病院機構で、脳手術後の体の回復を手助けする仕事を続けていました。回復の訓練は、1日に40分しかできません。例えば右手を動かすためのリハビリを40分行うと、翌日の訓練時には右手が昨日よりも少し動くようになっている。
―訓練を繰り返して、機能を取り戻していく。
菅原/そうです。ということは、訓練と訓練の間に、患者さんの脳の中で何が起きて、右手が動くようになっていくのか。それがいつ起きているかを調べていくと、ほとんどは睡眠中に起こっているということがわかってきました。
―睡眠中に何かが起きている。
菅原/であれば、睡眠を操ることができれば体の回復に活かせると、臨床でも実感としてわかった。そこから睡眠学に入っていきました。睡眠学でも、体を動かした後に寝かした人と寝かせない人では、寝かせた人の方が明らかに回復が早いということがわかってきた。
―予防と睡眠がつながりました。
菅原/そこから、病気予防という視点で、睡眠をマネジメント対象としてとらえてみました。当時の患者さんの中には、海外出張を頻繁にこなすようなバリバリ働くビジネスマンも多かったのですが、そのような患者さんに睡眠指導をしていると「もっと早く教えてくれれば、ここにこなくてよかったのに」と幾度となくいわれました。
―その気持ちはわかります。働きマンは、睡眠は非生産的なものとして、削ることしか考えていなかったでしょうし。
菅原/鬱病などの社会人が増えている状況を考えると、企業単位で睡眠指導を命令することができれば、病気予防として効果がでるのではないかと考えました。実際に海外では、NASAの研究者が宇宙飛行士の作業ミスを減らすために睡眠をコントロールする研究をしていて、この発想からビジネスコンサルティングが生まれています。
―NASAというと説得力があります。
菅原/この発想で、日本人にあった睡眠のコントロール方法をまとめてみました。ただ、まとめてはみたものの、わたしのまわりは医学界の人ばかり。できれば、一般の人の反応を確かめたかった。SOHOしずおかのビジネスプランコンテストに応募しようと思ったのは、一般の人の声を集めることができると思ったからなんです。「それはそうだろう」と言われるのか「そんなはずはない」といわれるのか、どっちだろうと・・・。
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