今月の物語の主人公は・・・
静岡音楽館AOI学芸員・小林 旬(こばやし じゅん)さん
※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史さんです。
※この記事は、全3回のインタビューのうちの2回目です。
≫小林さんのプロフィールと1回目のインタビューはこちら / ≫インタビュー3回目はこちら
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|「何かを表現する人」を支える仕事をしたかったんです
-小林さんは、どのようにして音楽の世界に入られたんですか。
小林/大学は美大で、芸術学を専攻していました。興味のあったことは、プロデュース。展覧会でも、音楽でも、映画でも、芸術の分野であれば対象は何でもよかったんです。自分では、作曲したり、小説を書いたり、映画を撮ったり、絵を描いたりという力はなかったので、芸術を生み出すそばで何かを表現する人を支える側で生きていきたいと、大学生の頃から考えてました。
-芸術表現の傍らであれば、ジャンルは特にこだわらなかったと。
小林/はい。
-美大を卒業されて、最初のお仕事は?
小林/新卒でここに入りました。就活の時に、静岡音楽館AOIの学芸員募集の要項を見つけて。応募したら運よく採用されて。静岡音楽館AOIがオープンする一年前です。ですから、わたしは今年でちょうど20年目なんです。
-勤続20周年ですか、おめでとうございます。ところで、就職する前には、どんな音楽を聞いてきたんですか。
小林/なんでも聴いていました。ジャズも、ロックも。クラシック音楽も高校の頃から好きで聴いていて、大学では、オーケストラ・サークルに所属して、フルートをやっていました。
-やはり縁があったんですね。
小林/でも、クラシックについては、就職後、仕事をしながら学びました。美術と違い、音楽は専門的には勉強していなかったので、仕事では随分と苦労しました。
|曲を知らなければ仕事にならない。
とにかくたくさん聴きました
-AOIの学芸員には、どんな知識が必要なんですか。
小林/プログラムを考える時には、曲名を聞いて、どんな編成か、曲の長さは、どんな音楽家を起用するか、費用は、お客様のニーズはあるか…、などの知識が必要になります。
-クラシックの作曲家や曲の数を想像すると…膨大な量ですよね。
小林/オーケストラ、合唱、オペラをはじめ、クラシック音楽全般に対する幅広い知識を知っていないと打合せができません。そのことでは随分と苦労しました。「ショパンのなんとか」と言われたら、その曲の情報をきちんと知っていないと打合せにならないので。
-それはそうですね。仕事をする上で最低限の基礎知識ということですね。
小林/それだけでなく、プロデュースは演奏家とお客様をつなぐ仕事なので、プログラムの魅力がお客様にわかりやすく伝わるようにアピールする上で必要な知識とそれを伝える表現力も大切だと思っています。
-どのようにして学んだのですか。
小林/とにかく、いろいろな曲をたくさん聴くこと。そして、楽曲に加えて、国内、海外両方の演奏家について知る必要がありますし、演奏会に行ったり、文献を読んだり…。日本の民俗芸能や伝統音楽とか、静岡県内のフィールドワークもしました。
|若い音楽ファン、音楽家を増やしていきたいんです
-20周年を目前にして、地域に根付いたという実感はありますか。
小林/静岡市民がクラシック音楽を聞く機会は増えたと思います。AOIには静岡音楽倶楽部(友の会)という会員制度があるのですが、会員数は毎年3%ほど伸びています。現在の会員数は、約1,500人。家計から余暇への出費が減っている中でのこの数字は、全国的にもいい数字ではないでしょうか。AOIのファンが増えている証拠だと思います。
-それは心強いですね。実は、わたしも静岡音楽倶楽部の会員なんです。年に2~3回、コンサートを聴きに出かけています。1月は中村紘子さんのピアノコンサートに出かけました。
小林/ありがとうございます。
-チケットの先行予約や割引購入できる会員特典がありがたいです。それから、時々送られてくるドリンクチケットがうれしいですね。
小林/でも、会員が増えているとはいっても、全ての公演が満席というわけではありません。目標は、618席の70%を目指しているのですが、まだちょっと届きません。もっと多くの方に聴きに来ていただきたいのですが…。
-静岡音楽倶楽部の会員さんは、どんな方が多いのですか。
小林/メインは、50代以上の方です。それは、日本に限らず、クラシック音楽が身近なヨーロッパでも同じ傾向のようです。できれば、なるべく若い方に聴いてもらいたいのですが。
-22歳以下1,000円という料金設定は、お子さんのいる家庭や学生の方には、とても魅力的な価格です。
小林/2005年に芸術監督に就任した野平さんが、若い人たちにもっと聴いてもらおうという方針を打ち出して、その料金をはじめました。それからは、若い層は着実に増えてきてはいます。それ以前、若い人の割合は入場者数の7%ぐらいでしたが、いまでは約13%にまで伸びています。
-若い人がたくさん聞きに来てくれると、会場の雰囲気も華やいでいいですね。
小林/クラシック音楽に辛気くさいイメージを持ってる若い人がまだまだ多いですし、長時間椅子に座っていることも億劫なんだと思います。ロックコンサートみたいに飛んだりはねたりするわけでもないですし。若い人に関心を持っていただくのは、なかなか難しいです。
-わたしが聴きに行ったときは、年配の方も多かったですが、女性も目につきました。
小林/そうですね、全体的にみても圧倒的に女性が多いです。
-若手音楽家の支援ということではいかがですか?
小林/「静岡の名手たち」というオーディションを続け、現在までに147名の音楽家を輩出しました。その方たちが育ち、ようやく日本の音楽界で活躍しはじめてきました。
それから、作曲を遊びという形で教えたり、歌ったり、打楽器の演奏をしてみたり、プロの演奏家さんに指導してもらう「子どものための音楽ひろば」というワークショップなどを15年続けているのですが、そこに小学生の時に参加して、中学高校になって吹奏楽部に入り、今はAOIのコンサートに聴衆として戻ってきてくれている若い方もいます。
20年続けてきたことで、クラシックにふれてくれる若い人が着実に増えているのではないかと、最近ようやく手応えを感じています。これは大変嬉しいことです。
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