36.俳優/別所哲也氏

2015年02月06日12:00
今月の物語の主人公は・・・
俳優・別所哲也(べっしょてつや)さん

36.俳優/別所哲也氏
 静岡県島田市生まれ。1987年、ミュージカル「ファンタスティックス」で俳優デビュー。90年、日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビューし、以降、映画・TV・舞台・ラジオなどで幅広く活躍中。99年からは、日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」を主宰。2008年、横浜みなとみらいに、国内初の映画祭連動型短編映画専門ブティックシアター「ブリリアント ショート ショート シアター」をオープン。

映画「TATSUMI」公式HP
映画「TATSUMI」上映情報
期間:2/7(土)~2/20(金)


※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史さんです。
・・・・・・・・・・・・・・・
 深みのあるリアルな絵と高度な心理描写による、大人向けのストーリーマンガを生み出し、それらを「劇画」と名付けた漫画家・辰巳ヨシヒロ。彼の半自伝的作品「劇画漂流」をもとにしたドキュメンタリー映画『TATSUMI マンガに革命を起こした男』は、海外で高い評価を得て、いよいよ日本で凱旋上映されます。

監督はシンガポールのエリック・クー。ナレーションほか、1人6役でボイスキャストを務めているのは、島田市出身の俳優で、ショートショートフィルムフェスティバルの主催者としても活躍中の別所哲也さん。2月7日(土)の静岡シネ・ギャラリーでの公開に先駆けて行われた別所哲也さんの合同取材のインタビューを紹介します。
* * * * * *
 

|いつかオファーしたかったと話してくれました。

-エリック・クー監督からオファーを受けたとき、辰巳ヨシヒロさんの作品をご存知でしたか。

別所/恥ずかしながらお話をいただいたときは、辰巳先生のことは知りませんでした。「辰巳ヨシヒロさんって、どなたですか?」というところからのスタートでした。

-別所さんとエリック・クー監督との出会いは?

別所/ぼく自身は、いろいろな国際映画祭に俳優としてでかけたり、ときには映画祭の主催者として招待される機会があり、そのような場でエリック・クー監督の名前を知るようになりました。クー監督も、ハリウッドでデビューして、英語でコミュニケーションができる数少ない日本人俳優のひとりとして、ぼくの名前を聞いていたようです。国際映画祭でぼくのことを知って、いつかオファーしたかったと話してくれました。

-エリック・クー監督はどのようにして辰巳ヨシヒロ作品に出会ったのですか。

別所/ぼくも後になって知ったのですが、辰巳ヨシヒロさんの作品は世界中で翻訳出版されているんです。フランス、イタリア、ドイツ、ベルギーなど、ヨーロッパの国々から南北アメリカまで、世界の数多くの国で読まれています。“YOSHIHIRO TATSUMI”と、英語やフランス語などで検索していただければ分かると思います。

エリック・クー監督自身は、映画監督を志していた青年の頃に、シンガポールで辰巳作品を手に入れたようです。その時にとても大きな衝撃を受けたと話していました。
それまでのマンガといえば、アメコミ作品のように、こどもたちのためのヒーローものだったわけです。それが辰巳作品ではまったく違った、オトナにしかわからないリアルな世界が描かれていた。その対照的な世界に接して、辰巳ヨシヒロの大ファンになったそうです。


|影の部分も受け止めることがオトナになるための扉だと思います。

-映画「TATSUMI 」は、海外でもとても評価されていますね。

別所/ありがとうございます。日本人の原作を、シンガポール人の監督が映画化して、それを世界中の人が評価してくれたことがうれしいですね。アメリカのアカデミー賞でも高い評価をいただきました。世界中で上映され、最後に日本での凱旋上映となりました。

劇画はアニメの源流といえますし、クールジャパンやカワイイ文化のルーツにあたるもの。「ルパン三世」や「あしたのジョー」、「ゴルゴ13」をはじめとする、ハリウッドの人たちも愛してやまない日本のマンガの、カット割りやストーリーなどの源流に、手塚治虫さんと並んで辰巳先生がいるんです。ですから、辰巳作品が世界中で受け入れられるのはとても自然なことだと思います。

36.俳優/別所哲也氏


-海外でも人気の辰巳作品のもつ普遍的な魅力とは。

別所/人間が個として持っている弱さや孤独、情けない部分は、日本人に限らず世界中の誰もが持っている共通の部分だと思います。明るい光を浴びれば、漆黒の影ができますよね。ぼくたちは、明るい部分だけを見ていれば未来は開けると言いがちですが、実は光と対の影の部分も受け止めていかなければ、本物のオトナにはなれないわけです。それは同時に、世界共通のオトナになるための扉なんだと思います。ときにそれは、猥雑であったり、官能であったりするわけですが、辰巳先生の作品はそれらに正面から向き合っている。そこが世界中の人に共感される理由なんじゃないでしょうか。

-今回の“声づくり”は、監督のイメージに近づけたのですか?

別所/収録は二日半でしたので、時間がありませんでした。それで、作品ごとのキャラクターについては、事前にいろいろな資料を読み込んで、このキャラクターはこういう声で、こんな人物設定でやってみたい、と自分なりに下準備して収録に臨みました。クー監督は日本語はわかりませんので、声のトーンやリズム、目つき、姿勢について演出指導をしてもらいました。でも、おおむねぼくの描いたイメージを受け入れてくれたので、そのイメージを監督の指導でさらに増幅させていった、そんな作業でした。

-一人六役で大変だったことは?

別所/落語であれば一人何役も演じますし、歌舞伎のように男性が女性を演じることもあるので、頭の中では演じ分けはできるはずだと思っていたんですが、実際にやってみると、役ごとに頭の中で精神構造を変えるような作業が必要になって、想像以上に、精神的にも体力的にも大変でした。

特に難しかったのは、「地獄」と「いとしのモンキー」という作品です。「いとしのモンキー」は監督自身にも思い入れのあった作品。社会の中で目立たないように生きている報われない男の話なんですが、その男の弱さと社会の一部としての自分の居場所を守ろうとする青年像を描くことが難しかった。この役は、実写ではぼくには絶対に声がかからない役だと思います。


|劇画ではコアなメッセージを表現できます。

-いまの時代に辰巳作品が公開されることについて。

別所/現代は、ふわっとした表面的なうつくしさや、やさしさ、ゆるキャラのようなかわいさなどに包まれている時代ですが、影の部分にあたる痛さとか臭さ、ダメダメで目を背けたくなる弱い部分の奥に潜んでいる本質的なものを、作品を通じて伝えられるのではないかと思います。実写で、真っ赤な血が飛び散ったり、女性の生々しい全裸がでてきたりすると、人間は違った方向の興味に誘導されてしまいます。劇画ではそれらは抑制され、その奥にあるコアなメッセージを表現できます。

36.俳優/別所哲也氏


-別所さんのこの一年のプランは。

別所/今年の前半は、黒澤明監督の「七人の侍」をモチーフにした作品「侍セブン」をはじめ、ミュージカルに取り組みます。その後、静岡県島田市を舞台にした映画が公開され、秋には17年目を迎える「ショートショートフィルムフェスティバル」を開催します。それから、俳優としても気づけばまわりが後輩ばかりになってしまって。それらの若い俳優やスタッフと何が一緒にできるかを今年は探ってみたいですね。


|静岡で21世紀型の新しい映画祭を育てたい

-地元愛について

別所/先日島田市が舞台の映画に出たときも感じましたが、高校3年までの18年間育った島田、藤枝、金谷、大井川、静岡の自然は、ぼくの土台となっているなと。何を表現するにしても、地元がスタート地点にあると思っています。

ぼくはよく「静岡は日本のプロバンスだ」って言っているんですけど、南仏に負けないほど風光明媚ですし、富士山も駿河湾の海の幸もあるし、お茶は究極のハーブですし、伊豆に行けば温泉もあります。伊豆半島や駿河湾のある静岡県は素晴らしい海洋文化をもっています。吉田港を、世界中の豪華客船が寄港できるように変えてほしいとも思います。空港もできたわけですし、静岡が持っている観光資源をもっともっと積極的にアピールするアクションプランが動き始めたらな、と思います。

-静岡で映画祭を開催したいというお話は本気ですか。

別所/もちろんです(笑)。これからの映画祭は、インターネットや共感メディアとつながった、21世紀型のあり方が模索されています。ショートフィルム作品は、劇場だけでなくインターネットでもフレンドリーなコンテンツとして受け入れられている、古くて新しいコンテンツです。ショートフィルムという古き良きコンテンツを軸に、静岡で21世紀型の新しい映画祭を育てることができたらいいですね。そのためには、地元のコミュニティやボランティア、気運が大切になると思います。

36.俳優/別所哲也氏


-最後に、静岡のみなさんにメッセージをお願いします。

別所/世界中の方々が評価してくれた作品を、ぼくが生まれ育った静岡のみなさんに、ようやく観ていただくことができ、とてもうれしいです。スタジオジブリや押井守さん、手塚治虫さんの作品や「アナ雪」など、ぼくたちが当たり前のように観ている作品もすばらしいですが、時にはオトナの作品を観て、みなさん自身のオトナの扉を開けて、オトナのホロ苦さも味わってください。そして、辰巳ヨシヒロという素晴らしい日本の劇画作家さんの存在を分かち合えたら幸せです。


◆俳優・別所哲也さんへのインタビュー/完


36.俳優/別所哲也氏


Posted by eしずおかコラム at 2015年02月06日12:00 | 36.別所哲也さん
削除
36.俳優/別所哲也氏