39.「手打ち蕎麦 たがた」主人/田形治氏(2)

2016年04月14日12:00
今月の物語の主人公は・・・
「手打ち蕎麦 たがた」主人・田形治(たがた おさむ)さん

39.「手打ち蕎麦 たがた」主人/田形治氏(2)
 1968年静岡市生まれ。中央大学法学部卒業。魚屋、JAF(一般社団法人日本自動車連盟)勤務を経て、2004年2月静岡市葵区常磐町に「手打ち蕎麦たがた」オープン。オクシズ在来作物連絡協議会会長、静岡在来そばブランド化推進協議会代表。

「手打ち蕎麦たがた」公式ホームページ


※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史さんです。
※この記事は、全2回のインタビューのうちの2回目です。
≫田形さんの1回目のインタビューはこちら


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|世界に伝えたい静岡の蕎麦文化

-蕎麦文化交流は、うまくいきましたか?

田形/会場では、静岡抹茶を練りこんだ「そば打ち」を披露して、目の前で「ちゅるりん麺」の試食を行いました。イタリアにはパスタ文化があるせいか、なんの抵抗もなく、おいしさが伝わったようです。

それに「そば打ち」パフォーマンスはパスタづくりに共通する部分もあり、8回の演目が終わると、たくさんのイタリア人から「Wow!(ワオ)」という反応をいただき、握手を求められました。これには本当に感動しました。

もうひとつ、わたしが今回のミラノ万博でイタリア人に紹介したかったテーマが、伝統農法の「焼き畑」と静岡の「在来そば」。こちらも、とても関心が高く、いい反応をいただくことができました。

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|イタリアの地域の食文化に対する意識

-そういえば、イタリアはスローフード運動の発祥の国ですね。

田形/そうです。今回現地で多くの方と接してみてイタリア人は、カラダにも環境にもいい食事を、こころから求めているんだ、ということを実感しました。わたしたち日本人の想像以上に「環境」「健康」「伝統」などを大切にしています。

-そういう価値観が、生活の中に根づいているわけですね。素晴らしい。

田形/万博が終わってから、北イタリアのソンドリオという村に行きました。ソンドリオは、ミラノからは電車で2時間ほどの山間の小さな村。イタリアでも有数のそばの産地です。その村の朝市が、在来野菜でいっぱいだったことも驚きでした。

静岡に帰ってきてから、ソンドリオ出身のシェフがいる清水区のレストラン「スパゲッテリア イタリア ダル」にでかけて聞いてみたところ「ソンドリオは在来だらけ」と言っていました。

-新鮮な在来作物が近所の市場に並んで、毎日の食卓に出される。それはすごいことですね。

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田形/ソンドリオは人口2万人ほどの小さな村で、高速道路も高速鉄道も拒否しているのだそうです。新しい道路よりも、自分たちの土地に代々伝わってきた在来作物や農法、食文化をとても大事にしています。自分たちが受け継いだ伝統を子どもたちに伝えていくことに“しあわせ”を感じているそうです。

そして、古いものや伝統を重んじて、次世代に引き継いでいくことが自分たちの使命であるという意識が共有されています。そんな話を聞くと「イタリアはすごいな。日本人よりも、地域の食文化に対する意識が高いな」と思わざるをえません。

-在来種には、どんな特徴があるのですか。

田形/在来種は、地域によって味も香りもまったく違います。共通しているのは、力強さ。食べるたびに感動しますよ。それに「その土地でしか食べることのできない個性のある食材を使った料理は、電車や飛行機に乗ってでも食べにいきたい」という人も多いのです。

-在来そばは、どんな個性があるのですか。

田形/在来そばは、若草のような香りやい草の香り、ナッツのような香りのものなど、いろいろあります。静岡の在来種は、木の皮の香りが特徴で、びっくりするほど個性的です。わたし自身は、日本一の在来そばだと思っています。実際、静岡在来の蕎麦をもとめて、県外から食べにくる人がたくさんいます。

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|静岡に帰ってきて

-今回ミラノ万博に参加して、これから取り組まなければならないことも見えてきましたか。

田形/ヨーロッパの日本食への関心の高さを実感できたことと、“そば”も予想以上に受け入れられたことに自信を持ちました。静岡の在来種を大切にしていく取り組みにも勇気をもらいました。

-これまでやってきたことは間違いではなかったと。

田形/はい。さらに、静岡県の優位性がわかったことも今回の収穫でした。イタリア人が知っている日本は、東京と京都と富士山の三つなんですね。その富士山の麓からやってきたというだけで“Oh!”となる。富士山の麓で育まれたお茶や駿河湾の食材は、彼らにしてみると、日本一美しい土地の食材というイメージで受け止められるわけです。日本人からみれば、アルプスの麓の食材みたいなイメージでしょうか。それは大きなアドバンテージですし、食べ物としての魅力が高いわけです。

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-たくさんの収穫を持って帰ったわけですが、地元静岡の反応は?

田形/日本食の人気はNo.1、在来種も伝統農法の大切さも確かめられました。大きな可能性を感じて戻ってみたら、静岡にはゆったりといつもと変わらない空気が流れていて「あれっ?」と。あたりまえなんですが…。おとといまでの「和食は世界一!」という賞賛につつまれた環境と、目の前の現実のギャップに「さあ、これからどうしよう!?」という気持ちになりました。


|地元静岡から世界に。これからの取り組みは?

-ミラノ万博で貴重な経験ができたのに、立ち止まってはいられないですよね。

田形/とにかく、できることからということで、知り合いのメディアの方に声をかけて、テレビや新聞で取材していただきました。でも、それらの反応は一過性で終わってしまいます。そこであらためて、ミラノ万博で感じた思いや手応えをどのようにして地域のみなさんに伝えていけばいいのか、在来そばを静岡市民に食べてもらうにはどうすればいいか、と考えました。

-具体的な取り組みとしては?

田形/まずは、在来そばを知ってもらい、食べてもらう機会を増やすことからはじめることにしました。毎月開催している「そばの会」ではこの春から、参加者と一緒に“オクシズ”の井川にでかけて、実際に焼き畑農法の作業やそば打ちの体験教室を開く予定です。街と山の両方から情報発信を続けて、仲間を増やしたいと思っています。そして、少しずつ大きなものに広めていきたいと考えています。

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-海外からの旅行者にも味わってもらいたいですね。

田形/食べ物だけではなくて、風景や街のおもてなし、交通など、静岡での体験のすべてが味につながって、おいしさの思い出になります。富士山の麓の街で食べた蕎麦の味は、強く記憶に残るでしょう。さらに、富士山だけではなく、駿河湾や大井川、オクシズの南アルプスなど、いろいろなものと一緒に楽しめる仕掛けも提案したいです。

昼ごはんに静岡の在来そばを食べたら、夜は寿司と静岡の地酒を!…というように、静岡の土地で生まれた食材と体験したできごとを全部楽しんでほしいです。

-楽しみですね。これからやりたい企画などはありますか?

田形/多くの人に食べていただくために、多くの蕎麦屋さんにも在来そばの提供に協力してほしいです。そして、将来は“はしご蕎麦”のような企画ができたらいいですね。いつの日か、静岡で「世界蕎麦まつり」も開催したいです。それには、お茶業界や地酒の蔵元さんたちも巻き込んで、一緒になって地域の食文化をひろめていく必要があると思います。

-静岡で受け継がれてきた食文化を多くの人に味わってもらい、次の世代に伝えていくことで、自分の暮らす街へのシビックプライドが育まれていくのかもしれないですね。今日は、ミラノ万博での貴重なお話をありがとうございました。

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◆手打ち蕎麦 たがた・田形治さんへのインタビュー/完


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Posted by eしずおかコラム at 2016年04月14日12:00 | 39.田形治さん
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