13.コピーライター/片桐義晴氏(1)

2012年09月10日12:00
今月の物語の主人公は・・・
 片 桐 義 晴 さん

13.コピーライター/片桐義晴氏(1)



「インタビュー・ノート」第2回は、「SCCしずおかコピー大賞」(静岡コピーライターズクラブ主催)実行委員長でコピーライターの片桐義晴さんにお話を伺った。片桐さんは、個人的に20年来のお付き合いをさせていただいている友人でもあり、わたしが出版社を立ち上げて雑誌を創刊した時には、メインのライターとして協力していただいた間柄。

 その片桐さんが、3年前から実行委員長として「SCCしずおかコピー大賞」を成功に導いてきた。個性派ぞろいのコピーライターたちの先頭に立って周囲を巻き込みながらイベントを実現していく様子からは、それ以前の片桐さんからは窺い知ることのできない熱いエネルギーのようなものが伝わってきた。

 何が片桐さんを変えたのか、「SCCしずおかコピー大賞」運営のエネルギーはどこからくるのか。ソフトな語り口の背後に見え隠れする、プロのコピーライターとしての「誇り」のようなものを感じとっていただけるとうれしい。

※このインタビューは、全3回のうちの1回目前編です。 (2)を読む

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◆プロフィール
片桐 義晴 (かたぎり よしはる)
1959年生まれ。1983年大学卒業後、情報誌出版社入社。1988年12月同社退社。1989年5月フリーのコピーライターとして独立、現在に至る。ラジオCM、ポスター、新聞広告、パンフレット等のコピーライティングから雑誌等の取材原稿など幅広く手がけている。静岡新聞広告賞2004 奨励賞、静岡県CMグランプリ ラジオ部門優秀賞、静岡新聞広告賞2011 大賞等を授賞。静岡コピーライターズクラブ会員

・静岡コピーライターズクラブ  http://www.shizuokacc.com
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撮影:大塚光一郎
(このインタビューは、2012年8月30日に行われました)

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|広告コピーの裾野を、一般の人にも広げたい

―こんにちは。今日は「SCCしずおかコピー大賞(以下「コピー大賞」)」についてと、実行委員長である片桐さんにとって「コピー大賞」というイベントがどんな意味を持っているのかについて、お伺いします。よろしくお願いします。

片桐/ よろしくお願いします。海野さんとは、いつも話をしているから繰り返しになることもあると思いますが、そこはうまくまとめてください。

―「コピー大賞」も、今回で3回目。3年前の第1回から応募者数がいきなり300名を超えて、昨年の第2回では400名を達成しました。広告コピーの公募展にこれほど応募があるなんて驚きました。すごいことですね。

片桐/ それがすごいかどうか、自分ではわからなかった。前例がないから。

―いえ、これは絶対にすごい数ですよ。大成功。だって広告コピーですよ。80年代後半ならともかくこの時代に、広告をテーマにしたお題についてきちんとコピーを考えて、手間をかけて応募しようとする人が静岡だけでこんなにたくさんいることに驚きました。

片桐/ では、そういうことにしておいて(笑)

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片桐氏(左側)と、聞き手・海野氏(右)


―片桐さんは、第1回の「コピー大賞」の時から実行委員を務めていたと思いますが、これは片桐さんのアイデアだったんですか?

片桐/ そもそもからお話しすると、ぼくが所属している静岡コピーライターズクラブという団体があります。県内(主に静岡県中部)のコピーライターたちで運営しているのですが、そこで不定期で「仕事展」というイベントをやっていました。これは、会員たちの作品を一般の方に見ていただくことが目的のイベントで、3年前に、その「仕事展」の実行委員になったことがきっかけです。

―そうでした、3年前にそんなことを言ってました。「仕事展」は、静岡コピーライターズクラブの会員が関わった広告作品を発表する場でしたね。片桐さんの作品や知り合いのコピーライターさんの仕事ぶりを見に、ぼくも出かけましたよ。

片桐/ だからというわけではないですが、毎回「仕事展」に来てくれる人は広告業界の人ばかりだった。3年前に会員たちが集まって「仕事展」のことを話した時に、これをやるだけじゃつまらないね、という話になったんです。今までと同じ企画では広がりが期待できない。もっと一般の人を集めたいねと。ではどうすれば一般の人にも知ってもらえ、参加してもらえるのか。そのアイデアを出し合いました。その時のアイデアの一つに「コピー大賞」があった。とはいっても、当初は来場者にコピーを書いてもらい、その中から賞を選ぶものだった。でも、どうせやるならちゃんとやろう、一般にも公募しよう、ということになったんです。

―実際にイベントを実現するためには、強力なリーダーが必要ですよね。結果的に片桐さんが、実行委員長を引き受けられたわけですが、よく決心しましたね。

片桐/ 決心はしていません、なりゆきです。そもそも自分を含めてコピーライターは、口を出すのは好きだけど、カラダは動かない人種ですから。でも、ぼくは先のことを考えないタイプだからできたのかも。自分が面白そうと思ったらやっちゃえ、と。それで第1回コピー大賞の開催へとつながったんです。もちろん、実行委員会のメンバーをはじめ、いろいろな方の支えがあったから実現できたんです。それに会場となった静活さんのプラネタリウムを、どうしても使いたかった。そこで何をやるか決まってなくて、「コピー大賞」をというのも理由の一つです。


|応募作品の選考は、コピーライター同士の批評の場でもある

片桐/ コピー大賞には、初回から300名を超える応募がありました。一次審査の時に、審査する作品数が多くて大変だったことを覚えています。


―昨年は、400名の応募者に対して応募作品数は1700もありましたからね。こんなに多いと審査するのも一仕事でしょう? 審査はどうしているんですか? 1700の応募作品を全部読むのですか?


片桐/ もちろん! 十数名のスタッフが5時間ほどかけて、すべての応募作品を読みます。

―1700もの応募作の審査は、スムーズに進行するものなのですか。

片桐/ 過去2回を振り返ってみると、はっきりと3つに分かれました。一読して「いいな」と思える作品と、「ここを変えれば良くなる」という作品、それから「残念賞」。

―そうなんですね。

片桐/ テーマ別に選考担当者が4、5名いて、各テーマごとに15作品を選ぶという方法をとっています。

―昨年のテーマは「新聞を読みたくなるコピー」「日本酒を飲みたくなるコピー」「富士山を登りたくなるコピー」の3本でした。それぞれ580作品、550作品、576作品の応募がありましたから、その中からテーマごとに15作品を選ぶということですね。

片桐/ そうです。15作品のうち10作品は、選考担当者の意見も重なり、わりとすぐに決まるんです。大変なのは、残りの5作品の推薦作品が、選考担当者ごとに見事にばらけること。選考担当者の意見がはっきりと分かれる。担当者の選考ポイント、簡単に言えば好みだったり。それぞれの考え方が如実に現れるんです。

―そうなんですか。その意見の分かれた5作品を、各担当者が自分の推薦する作品の評価ポイントを説明しながら、他のメンバーの共感を獲得していくわけですね。作品を素材に、実は各選考担当者の視点の広さや発想の柔軟さ、斬新さ、それからセンスなどが問われる場でもあるんだ。

片桐/ 大変だけど、そのやりとりがおもしろい。「そんな解釈の仕方があるんだ」「それは自分にはない発想だなぁ」とか。そのようにコピーライター同士が互いにコピーを批評し合うことは、日常ではほとんどありませんから。

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第1回「SCCしずおかコピー大賞」授賞式で入賞作品を発表する片桐さん


―たしかにそうですね。

他のメンバーの推薦理由を聞いて「…そうか、だからこの言葉が活きるんだ、チカラを持つんだ」と。それぞれが推薦理由を説明しながら、周囲の理解と共感、賛同を得ていくんです。そうしたプロセスを経て作品が最終選考へと残っていく。

―それはおもしろそうだな。

片桐/ 「コピー大賞」を運営するプロセスの中で、この選考段階がとても貴重な場になっています。自分自身の勉強にもなります。


|四半世紀かけて、「自営業」から「コピーライター」へ

―今年も片桐さんが実行委員長ですよね。3年連続実行委員長。らしくないですねえ(笑)。

片桐/ そうだろ、らしくないんだよ(笑)

―片桐さん自身にとっても「コピー大賞」というイベントが、義務感や、やらされ感でやっているわけではなくて、ご自身にとって大切な何かを経験させてくれるからですよね、きっと。

片桐/ 自分の中では「コピー大賞」を通じて若い人と触れ合えることが、じつは一番のモチベーションになっています。「コピー大賞」の一環として行っている「広告コピーの書き方」のワークショップを通じて、大学生や専門学校生、それから中学生などの若い人に、コピーについて教える(教わる)ことがとても楽しい。ぼくにとっては、とても大切な場になっています。

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―以前から若い人とのコミュニケーションに関心があったんですか?

片桐/ 全然ありませんでした。人に何かを教えることにも興味がなかった。なにより、自分はコピーライターという仕事を天職だなんて思ったこともなかったですし。頭の中にはずっと、違う仕事でもいいや、という自分がいた。喫茶店のマスターとかね(笑)ずっとそう思っていたから。いま思えば、逃げ道を探していたんだと思う。だから、3年前まで名刺にもコピーライターとは入れていなかった。

―そうだったんですか。ぼくの持っている片桐さんの名刺は20年前のものだから、最近までコピーライターという肩書きを使っていなかったとは知りませんでした。

片桐/ きっかけは、コピー賞のワークショップで中学生を教えることになったこと。第1回目のコピー賞の計画を立てている頃、たまたま自分の息子の家庭訪問がありました。息子の話が終わって帰り際に玄関で担任の先生が「お父さんはコピーライターなんですよね。個人的に広告に興味があるんですよ」と声をかけられました。担任の先生は美術の先生だったのですが、ぼくは「コピー大賞」に実際に応募がどの程度くるのか心配していたので、先生に「コピー大賞」という企画をやっていることをお話しして「ぜひ中学生たちに応募させてみませんか」と話したんです。書き方がわからなければ「ぼくが教えにいきますから」と。

―それからどうなったんですか。

片桐/ しばらくして先生から「先日のコピーの件ですが、書き方を教えにきてください」と連絡があった。ぼくは美術部の生徒さんにでも声をかけてくれればいいや、という程度の気持ちだったのですが、それが、自分の息子もいる2年生全員に教えるという話になっていた。

―2年生全員!それはなかなか覚悟がいりますね。

片桐/ 「自分が広告コピーについて、学校で中学生に教えるんだ」とあらためて考えた時に、自分が「好きだ」と言いきれない仕事のこと、中途半端な気持ちで向かい合っている仕事のことを子どもたちに教えることは、子どもたちに対して失礼だと思いました。それで、自分の仕事について、本当に真剣に考えました。あんなに真剣に仕事のことを考えたのは生まれて初めてだったんじゃないかな。言葉にすると照れるけど、真っすぐに向かい合って考えました。こんな気持ちのままでいいのか・・・と。

―喫茶店のマスターにも心が揺れるのに、中学校の教壇に立って、それらしい顔をして子どもたちに教えていいのかと。2年生全員に教えるとなると、責任もありますしね。

片桐/ 2年生全員ということもあったけど、一番大きかったのは、そこに自分の息子がいたことなんだよね。そんないいかげんな父親の姿を見せられない。それは絶対にダメだろうと。

―うん、うん(うなずき)。

片桐/ そんな気持ちのまま自分が教えにいくのなら、他のコピーライターに任せた方がいいだろうとね。

―そのあたりの誠実さは、片桐さんらしいですね。

片桐/ いろいろ考えてみると、自分もフリーのコピーライターになって20年を経験している。来年には25年になる、四半世紀ですよ。この間に自分の手がけた作品が世の中の多くの人の目に触れてきたし、多くの企業のお手伝いもさせていただいてきた。取材も好きな仕事のひとつで、あちこち出かけていってはいろいろな人の話を聞いて、言葉にしてきた。振り返ってみると、そこには…そんな自分がいた。自分の性格からして、嫌いな仕事であれば20年も続くわけがない、というのがあって。そのうえありがたいことに、20数年間、途切れることなくいろいろなところから仕事もいただけている。そこでね、考えたんです。この先に喫茶店のマスターはないんじゃないか、自分にはこの先もこの仕事しかない、とね。

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―そんなことがあったんですね。

片桐/ 24年目にしてはじめて自分の中で「この仕事で生きていこう」そう思った。迷いがなくなったんです。もう逃げるのはやめようと。そこで変わりました。

―「コピー大賞」で一番大きなものを得た人は、片桐さんだったわけですね。

片桐/ 自分でもそう思う。このことがきっかけになって、仕事に対する自分の気持ちが整理できて迷いがなくなったことは本当に大きかった。覚悟ができるのに、何と24年もかかったわけ。それで、前向きになった。

―そんな決意があったとは。この3年間の片桐さんは、確かに前向きだと感じていました。

片桐/ そうだよ、自分でもビックリするくらい前向き(笑) 本当に変わったからね。目覚めた感じかな。それ以前は人に仕事のことを聞かれると「コピーライターなんて全然儲からないし、大変なだけ」って答えていたけど、もう言わない。自分の仕事の悪口を言ってるくらいなら、辞めればいいんだから。もう逃げない。この仕事に誠実に向かい合って、楽しみながらやっていきたいと思っている。名刺にコピーライターと入れたのは、それからです。

―それまで、「職業欄」にはなんて?

片桐/ 「自営業」か、もっと詳しく書かないといけない時は「広告業」かな(笑)。

―24年目にして新人コピーライターだ。


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Posted by eしずおかコラム at 2012年09月10日12:00 | 13.片桐義晴さん
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