15.電子書籍を考える/大石直哉氏(1)

2012年11月12日12:00
今月の物語の主人公は・・・
大 石 直 哉 さん

 希望が見えない出版界で、未来を感じさせてくれる言葉“電子書籍”。各社からタブレット端末が発売された2012年前半には、“電子書籍”元年という言葉も聞かれました。その一方で、わたしたちの身の回りで電子書籍を読んでいる人はほとんど見かけないという現実があります。はたして電子書籍は、読者にとってどこまで身近になってきたのか。【日刊いーしず】の連載コラム「電子書籍スタートガイド」の執筆者でもある大石直哉さんにお話をお伺いしました。
15.電子書籍を考える/大石直哉氏(1)

◆プロフィール
大石 直哉(おおいし なおや)さん
Webサービスやモバイルアプリケーションの企画、デザインなどを手がける株式会社ドッグラン代表取締役。AppleからiPadが発表されて以降は、電子書籍のデザインと電子書籍ソリューションの構築を主な業務として取り組んでいる。

・コラム「電子書籍スタートガイド」 http://digitalbook.eshizuoka.jp
・株式会社ドッグラン ホームページ  http://dogrun.jp

※このインタビューは、全3回のうちの1回目です。 (2)を読む

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|「電子書籍スタートガイド」連載を終えて

―【日刊いーしず】での連載コラム「電子書籍スタートガイド」が無事終了しました。おつかれさまでした。今日は読者代表として、電子書籍は実際どこまで使えるものになってきたのかをお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。

大石/こちらこそ、よろしくお願いいたします。

―今回の連載にあたって、意識したことはありますか?

大石/二つあります。ひとつは、コンテンツになりえる情報を持っている方に、情報発信の手段として電子書籍という選択肢があることを伝えたいという気持ちがありました。もうひとつは、技術的な話になるので間違えてはいけない、ということを押さえたうえで、電子書籍の利用形態やビジネスについて、毎回自分の解釈を付け加えることを意識しました。

―連載で、それら二点について上手く伝えられましたか?

大石/読者の方にどれほど伝わったのか、興味を持ってくれたのか正直なところわかりませんが、わたし自身は、最初に書きたいと思っていたこと以上に「電子書籍スタートガイド」は上手くまとめられたと思っています。

|電子書籍が、だんだんと日常になっていく

―それを聞いて安心しました。そもそもの話なのですが、電子書籍のメリットを教えてください。

大石/電子書籍のメリットは、大きく三つに集約できると思います。一つ目は、物理的な保管場所をとらないこと。電子書籍のデータは、クラウド上に保存できます。二つ目は、モビリティ。どこにでも持ち出すことができ、読書のできる場所がひろがります。ネット環境があれば、どこにいても本を購入したり、その場で読むことができます。三つ目は、インターネットの各種サービスとの連携。代表的なものがソーシャルリーディングです。たとえばSNSやその他のサービスを利用して他者と読書体験を共有することができます。

―7月に楽天からkobo(コボ)が、9月にはソニーからReader(リーダー)の新製品が発売されました。10月にはアマゾンがKindle(キンドル)ストアを日本でオープン、11月にはAppleからiPad miniが発売になるなど、今年後半は電子書籍周辺がにわかに賑やかになってきましたね。大石さんからみて、これらの動きはどのように見えますか?

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ソニーReader

大石/電子書籍を買うという行為が、一部の本好きによる特別なものではなくなったのは大きな変化ですね。普通の人にとって、電子書籍の購入はPCやスマートフォンのネットショッピングの延長線上につながった。その点で見逃せないのは、スマートフォンが加速度的に普及したことです。スマートフォンでアプリやコンテンツをダウンロードすることは、わたしたちの日常行為になりました。ファッションなどもスマホ経由で買う人が増えています。スマホでのネット利用、ネットショッピングが当たり前になったことで、結果的に一般の読者にも電子書籍をどのような方法で買うのか、というイメージができるようになったと思います。

―ところで、大石さんご自身は電子書籍をよく読んでいるのですか?

大石/読んでいますよ。もう300冊以上も購入しています。そのほとんどが漫画なんですが(笑)。

―ハハハ・・・(笑)、ところでどんな端末で読んでいるのですか?

大石/ わたしは、これまで発売されたiPadの全タイプ(10インチ)とグーグルの開発したNexus(ネクサス)7(7インチ)を持っています。電子書籍は、Nexus7で読むことが多いです。

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iPad

―大石さんが、Nexus7を使う理由は何ですか?これから電子書籍を読もうとする方が最初に気になることが「どんな端末を選べばいいのか」だと思います。ぜひ、アドバイスをお願いします。

大石/まずはサイズと重さです。読書を目的とするなら書籍のサイズに近い7インチのタブレットが最適でしょうね。読みやすいサイズと軽さのちょうどいいバランスが、Nexus7なのかなと思います。その点で、7.9インチのiPad miniは電子書籍端末として期待しています。従来のiPadは見やすいし、インタラクションするアプリケーションのようなコンテンツ(教育用やマニュアルなど)には良いと思いますが、ベッドで寝転んで読むにはちょっと重すぎますからね。

―読書が主目的ならサイズは7インチで、軽ければ軽いほどいいということですね。たしかに7インチサイズのリーダーでしたら、片手でも読めそうです。

大石/個人的にはそう思っています。

|アマゾンの「キンドル」は日本で受け入れられるのか?

―日本ではまだ馴染みが薄いですが、コンパクトな電子書籍端末の代表格として、Eインクという表示装置を使用したアマゾンのキンドルがあります。米国では人気も高いようですね。

大石/キンドルは電子書籍端末としてかなり評判が良いようです。実際にEインクのディスプレイは、非常に目にやさしく読みやすい。紙に近い印象です。キンドルのもうひとつの魅力は価格が安いこと。文芸書キンドルストアで買って読むには良い端末だと思います。

―11月19日に予定されているKindle Paperwhite(キンドル ペーパーホワイト)の発売も楽しみですね。

大石/そうですね。8千円を切る価格も魅力だと思います。

―アマゾンからは、Kindle Paperwhite(キンドルペーパーホワイト)のほかに、汎用型タブレット端末であるKindle Fire(キンドルファイア)も発売が予定されています。端末選びにあたっては、Kindle Paperwhiteや楽天kobo、ソニーReaderなどの電子書籍専用端末のグループと、Kindle FireやNexus7、iPad miniなどの汎用型情報端末のタブレットのグループに分けて、目的に応じて選んだ方がよさそうですね。

大石/その通りです。情報端末と電子書籍専用端末は別物です。専用端末は価格が安いので、文芸書などの読書が中心という方は両方持っていてもいいと思います。
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―アマゾンのキンドルストアは、日本語タイトル数5万点からのスタートです。そのすべてが、文字サイズを変更できる「リフロータイプ」のもので、「(文字サイズを変えられない)PDFタイプ」は電子書籍とは呼ばないのだそうです。その理由は、読みにくく、読書体験として良質とはいえないからだそうですが、実際にリフローできるかどうかは、どれほど重要なのでしょう?

大石/文字の大きさを変えられるリフロータイプは、たしかに読みやすいと思います。視力や、感覚的に読みやすい文字の大きさは、個人によって違いますよね。とくに年配の方には、リフロータイプが疲れにくいんじゃないでしょうか。

―リフローかPDFタイプかは、端末に依存するのですか?

大石/それはコンテンツの作り方の違いです。アマゾンでは、リフローデータとプリントレプリカデータの両方を持っているのではなかったかな。文字が中心の本はリフローデータで作られていて、漫画や写真集などは画像としてプリントレプリカなのだと思います。端末選びの際には、それほど意識する必要はないと思います。

|ネットの通信環境と読書体験の快適さ

―アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者がインタビューで「電子書籍端末で重要なことは、ディスプレイの性能と通信速度」だと答えていました。ウェブサイトへのアクセスだけでなく、ストリーミングで動画を視聴したり、ファイルをダウンロードしたりというのが主な用途であれば通信速度と帯域が広いことが重要になります。現在の通信環境は、ストレスなく利用できる環境にあるのですか?

大石/ ネットにつながっている環境が前提となるわけですが、公衆無線LAN環境はあまり実用的ではないと感じています。わたしの場合に限っていえば、新幹線以外でほぼ使えたことがありません。新幹線にしてみても、静岡駅で乗車できるひかりの一部に限られるのが現状です。

―環境が整うまでに、しばらく時間がかかりそうですね。最近話題になっているLTEの普及が進めば変わりますか?

大石/ LTEというのはセルラー通信のひとつのサービス名です。高速のセルラー通信であるLTEが使えることは、読書体験に大きくプラスになります。特に汎用型情報端末としてのタブレットは、読書だけでなくメールを見たり、SNSなどのアプリを使ったり、Webの視聴にも使えます。LTEはそのような場面での快適な利用につながると思います。

― 読書以外の情報端末としても使いたいという方は、汎用型情報端末のタブレットをLTE通信で使用するのが現時点で考えられる理想のカタチのようですね。

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Posted by eしずおかコラム at 2012年11月12日12:00 | 15.大石直哉さん
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