今月の物語の主人公は・・・
映画館「静岡シネ・ギャラリー」川口さん、海野さん
右側が川口さん、左側が海野さん
◆副支配人・川口澄生さん プロフィール
1980年静岡市生まれ。多摩美術大学美術学部卒。映画美学校「シネマ・マネジメント・ワークショップ」修了。多摩美在学中は映画評論家・西嶋憲生ゼミにおいて「金曜シネマテーク」と題した上映会を開催。2004年より静岡シネ・ギャラリーにてアルバイト勤務。もぎり、映写技師を経て、2006年より副支配人。
◆副支配人・海野農さん プロフィール
オープン直後のシネ・ギャラリーで映画を鑑賞。一ヶ月後からチケットブースのアルバイトとして働きはじめる。その後、現場で技術を学びながら映写業務を担当。大学自主退学後、映写チーフを経て、現在静岡シネ・ギャラリー副支配人。
「静岡シネ・ギャラリー」ホームページ
「静岡シネ・ギャラリー」イベントニュースブログ
※インタビューの聞き手は、(株)しずおかオンライン代表・海野尚史さんです。
※この記事は、全2回のインタビューのうちの1回目です。
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|劇場をリニューアルし、デジタルシネマ設備を導入しました
-2013年11月30日に、静岡シネ・ギャラリーがリニューアルオープンされましたね。おめでとうございます。
川口・海野農/ありがとうございます。
-開館10周年にあわせた大きなリニューアルと聞いています。今回のポイントを教えていただけますか?
海野農/きっかけは、35ミリフィルムでの配給がなくなることによる、デジタルシネマ設備の導入です。これまで35ミリフィルムで上映していたのですが、今回のリニューアルでデジタル化しました。
今回導入したデジタルシネマを映写するDLPプロジェクター
-デジタル化すると、何が変わるのですか?
川口/劇場側として一番大きな変化は、モノとしてのフィルムがなり、データになったことです。わたしたちのような単館系の映画館が上映する作品は、全国に10本もフィルムがない映画も多いんです。ですから、次に上映する予定の劇場では、ぼくらの劇場での上映が終わるのを待っているんです。
-フィルムの数は、そんなに少ないのですね。
川口/先日上映した映画「太陽がいっぱい」は、全国に2本か3本しかフィルムがないはずです。常に後ろが詰まっているので、どんなにヒットしても、最初に計画していた2週間ないし4週間しか上映できませんでした。デジタルシネマの場合はデータですので劇場の数だけ複製できますし、ヒット作はいつまででも延長して上映できるわけです。
-観客の動員状況をみながら、柔軟な上映が可能になる。ヒットしたときにチャンスを逃すリスクも減りますから、デジタル化は劇場として大きなメリットになるわけですね。
川口/大きいですよ。観客が入っているのに上映できなくなるのはつらいです。
海野農/同時に、前の劇場でヒットしていても、フィルムを待つ必要がなくなりました。
川口/フィルムは、名古屋で上映してから静岡に回ってくることが多いのですが、東京でヒットすると名古屋もギリギリまで上映回数を増やすんです。そんな時には、うちの劇場の上映前日に、ぼくが名古屋の劇場までフィルムを受け取りに行って、夜の上映が終わるのを待って帰ってくることもありました。
-まるで「ニュー・シネマパラダイス」そのままですね。
川口/まさに、そうです。あの世界、あの真夜中版です(笑)。
|ほかの場所ではない、「劇場空間で見る」楽しみを味わって
-映画を観る人にとって、フィルムからデジタルに変わることで、どんな変化があるのですか?
海野農/映像に関してデジタルとフィルムに、違いがあるかどうかと聞かれれば、違うと思います。デジタル化によって画質が鮮明になったとか、フィルムの方が味わいがあるとかいわれることもあります。でも、それは、どちらがいいとか悪いの問題ではなくて、観る人の好みによると思います。
川口/デジタルシネマ設備の導入によるお客様にとっての一番の変化は、お客様が映画を楽しむ空間に余裕をもたせることができたこと。映写機が小さくなり、映写室の壁をとって空間が広がったことで、シートの足元を前後6センチ広げ、ゆったりとした新しいシートを導入することができました。
シート間隔は約6センチ広がり、シートも足元もゆったり
-従来よりも、快適に映画を楽しめるようになったわけですね。これは、うれしい。
海野農/映画に“アウラ”というものがあるとしたら、それは劇場空間全体に存在しているものだと思うんです。スマートフォンやテレビで見る映画や動画との一番の違いは、劇場という空間での体験。そこを意識したリニューアルになりました。
-館内の雰囲気も変わりましたね。
海野農/まず、ロビーが変わりました。
川口/「カフェみたいだね」といわれると急に恥ずかしくなるんですが(笑)。
落ちついた雰囲気のロビー。映画のフライヤーが並ぶ棚も新調
映写室の壁を下げたことで空間が広がった。音響は5.1chから7.1chに
-入口から入った時、特別な、ハレの空間に足を踏み入れた気がしました。
川口/ぼくらの劇場は、2ヶ月先の上映スケジュールまでアナウンスしています。これは、いまの興行スタイルとは逆行しているんです。さきほどお話ししたように、作品がヒットすれば、1日に6回でも7回でも上映する。入らない作品は、来週上映を予定していても、1回だけで打ち切りたい。いまは、そのように上映スケジュールを、臨機応変に対応する劇場が主流です。
-シネ・ギャラリーさんは違うのですか。
川口/ぼくらは、観客が入るか入らないかわからないけど、作品の力を信じて、きちんとアナウンスして、スケジュールを立てて上映することにこだわっています。つまり映画は興行である、と。一人しか入っていない作品を、3回上映するということだってあります。
海野農/お客様の動員状況に上映スケジュールをあわせていく流れをつきつめていくと、劇場で観る映画の楽しみが、どんどん薄れていってしまう気がするんです。自分の見たい作品をいつでも観ることができるようになったら、それは世の中にたくさんある動画に近づいてしまう。映画興行は、「来たる何月何日の何時から、○○を上映!」とアナウンスして、観客の期待を盛り上げて、当日観にきていただく。一旦始まれば「ショウ・マスト・ゴー・オン」で、最後まで上映する。一時停止は、なし。いまは、なかなか伝わらないかもしれませんが、いつか、このようなスタイルが見直される時がくるんじゃないかと思っています。
川口/だから、今回のリニューアルでは、上映前に映画を心待ちに過ごすロビーの快適さにこだわりました。落ちついたロビーで過ごす時間が、映画の世界への導入部になってほしいなと。
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