6.吉蔵代表取締役/杉山吉孝氏(1)

2009年01月19日00:00
今月の物語の主人公は・・・杉山吉孝さん

6.吉蔵代表取締役/杉山吉孝氏(1)


今回お話をお伺いしたeしずおかブロガーさんは、家具の話を中心に、暮らしや文化への想いをブログで発信しているkittsanさんこと杉山吉孝さん。杉山吉孝さんは、静岡市葵区住吉町にある家具工房に生まれ育ち、島桑指物家具、創作李朝家具、厨子・仏壇をはじめとした、個性的で新しい家具作りに取り組んでいます。そんな杉山さんに、家具作りへの想いを込めた、kittsan流(杉山流)ブログ活用法について、お話をお聞きしました。

◆ブログタイトル「kittsan流」 http://kittsan.eshizuoka.jp/
◆「吉蔵」ホームページ http://www.kichizo.co.jp/

※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史です。
※この記事は、全2回のインタビューのうちの1回目です。
※この記事の内容は、取材時点の情報・インタビューにもとづいています。取材/2009年1月


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「ブログは、ホームページの外にある会社の情報発信の場」

-よろしくお願いします。まず最初に「吉蔵」さんについて、〈eしずおかブログ〉のユーザーさんに紹介していただけますか?

杉山/「吉蔵」は、私の祖父が静岡市で創業した家具工房です。祖父の時代は、静岡家具の黎明期で、鏡台や針箱などの和家具を主に製作していたようです。その後、高度成長時代になり、父が主になって弊社も静岡家具が得意としたサイドボードやドレッサーなどを数多く生産しました。そして、石油ショックを経て、父は島桑指物などの趣味的な付加価値の高い家具を製作する方向に変換していきました。10数年前からは家具業界も競争の激しい時代に入り、私の代になり、それまでの量産品とは違う、趣味性の強い、こだわりのある家具の必要性を強く感じました。

そんな時に、知人からのすすめもあって朝鮮の創作李朝家具を作るようになったというわけです。当時、ヨーロッパの家具に比べ、李朝家具についての情報はほとんどなく、李朝家具といえば、いわゆる“骨董” の世界でした。そこで、李朝家具を扱いはじめるにあたってわたし自身も朝鮮の文化や歴史を学ぶようになり、次第に李朝家具に魅せられていったわけです。販売面でも、小売店頼みの販路だけでは先細ってしまう危機感を感じていました。柳家ギャラリー(焼津市)や静銀ギャラリー(静岡市)で展示会を開くなどして、一般のお客さまに家具を見ていただく機会を作り、直接販売できるような取り組みも始めました。

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最近では、従来の和家具や李朝家具のほかに、2007年に“グッドデザイン賞”をいただいた厨子(「ZUSHI KASHIKO」)をはじめ、現代の日本の住空間にあった新しいタイプの指物家具の製作にも取り組んでいます。2001年には、社名を祖父の名前である「吉蔵」に変更して、いまに至っています。

-ブログをはじめたきっかけはなんですか。

杉山/2008年2月に、家具組合で開いたブログ講座に参加したことがきっかけですね。20数名の同業者が参加していたのですが、そのときに〈eしずおかブログ〉でブログを立ち上げました。

-それ以前に、ブログについて興味はあった?

杉山/ 趣味で映画が好きということもあり、素人が書いている辛口映画評ブログなどは、以前からよく見ていました。ただ、その頃は、ブログとホームページの違いがよくわかっていませんでした。ブログ講習会に参加してみて、旬な情報をタイムリーに発信できたり、〈eしずおかブログ〉のように、会社のホームページの外に情報発信の場を持つことで柔軟に活用できるブログにおもしろさを感じました。

-ブログを書きはじめて、いかがでしたか?

杉山/最初は“最低1ヶ月は書き続けよう”と思って始めました。それで、1ヶ月目はなんとか毎日書いたのですが、ブログを毎日書くということは、想像以上に大変なことでしたね。仕事が終わってから、夜中に書いていたということもありましたし、自分が書いた内容について「こんな無責任でいいかげんなことを、人様に見せてしまっていいのか」などと自問自答したり、随分と悩みました。

たしか3月か4月頃だったと思いますが、書くことがあまりに大変でしばらくブログを書かなかった時期がありました。それで、半月ほどしてから自分のブログを開いたら、コメントが入っていた。その時に、いただいたコメントに返事を書きながら、“これからは、空いた時間を使って、仕事に役立てるためというよりも、自分が楽しめることを書こう”と方向転換したんです。そう決めてからは、日々のこと、趣味のこと、もちろん仕事や家具のこと…、“次は何を書こうかな”と、考えることが楽しくなりました。

- “仕事としてブログを書く”という義務感から解放されて、ブログを書く行為そのものを楽しめるようになったのですね。

杉山/私自身が、もともと仕事オンリーの生活はストレスが溜まってしまう性格なんです(笑)。最近よくいう“ワーク・ライフ・バランス”ではありませんが、プライベートも楽しめないと続かない…。それは私自身が起業したのではなく、3代目という恵まれた環境に育ったせいかもしれません。

- ブログでは、どんな内容を書いていますか?

杉山/ ブログを会社のPRツールとして活用するのであれば、一つの家具を作るプロセスを紹介したり、家具職人などの人を出したり、方法はたくさんあると思います。私の場合は、家具という文化の背景や自分の専門情報で一般の方がご存じないと思われる情報を、発信していきたい。kittsanにアクセスしてくれた方が、「このブログを読んでよかった」と思ってくれるようなブログを書きたいんです。仕事以外でも「さようなら、たこ焼きのヨコヤマ」という記事は、“もしかしたら自分しか知らないかもしれない、ぜひみなさんにお伝えしよう、と思って書いたものです。

-想定する読者層というのは?

杉山/最初は家具に興味のある方に向けて書いていました。建築やインテリアのことも書いていたのですが、それだけだとネタが無くなってしまいます。そのうちに、だんだん自分の書きたいことを書くようになってしまいました(笑)。

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-ブログを書きはじめてから、良かったことは?

杉山/一番良かったのは、静岡に暮らしていながら、これまでまったく知らなかった方からコメントをいただけたことです。10月に行われた「Blog Action Day」というイベントを「パソコンわかばクラブ」さんのブログで知って、急いでアクセスしてみました。「Blog Action Day」は、年に一度、同じ日に同じ話題について取り上げるイベントなのですが、2008年のテーマは「貧困」。さっそく、私も「Blog Action Day」に参加してみようと思って、貧困について記事を書いてみたんです。そしたら、その記事に、まったく知らない方から批判的なコメントがあった。

一瞬、不安になりましたが、よくよく考えてみると、自分の書いたことに対してその方は反応してくれ、さらに、真剣にコメントを書いてくれたわけです。そのことが、とってもうれしく感じられました。もちろん、その方に返事をかいたのですが、それが一番良かったことでしょうか。これこそ、ブログならではの出来ごとだと。

-1本の記事に、どのくらいの時間をかけていますか?

杉山/私は、毎日書くことよりも、週2回でも3回でもいいから、きちんと書きたい。そんな性格もあって、1回書くのに1時間から2時間、内容によってはもっとかかってしまうこともあります。最初の頃は、ほとんど夜中に書いていたのですが、ブログは書き始めると何時間でもかかってしまう。人によっては15分程で書けるのかもしれませんが、私の場合は時間がかかっても、ついきっちり書きたくなってしまうのです(笑)。

-ブログはケータイではなく、パソコンで書くのですか?

杉山/ケータイで書くこともありましたが、基本はパソコンです。パソコンの方が、書き慣れていますから。

-書き続ける中で、ブログに対する印象は変わりましたか。

杉山/ブログは、書き手の性格が出ますね。私の場合は、さきほど話したように、あまり仕事中心で考えたくない。もっと自分が楽しめることを書きたい…、とても自己中心的なんです(笑)。ブログを書き始めてから、“自分は世界の中心にいると思っている人間なんだ”とつくづく実感しました。

-たしかに、ブログは自分のさじ加減でいかようにもなってしまうメディアかもしれません。雑誌であれ本であれ、またはテレビやラジオもそうですが、従来のメディアでは、情報の発し手(書き手や演じ手)と情報の受け手(読者や視聴者)の間に、編集者やディレクターが介在して発信する情報の方向性を決め、企画意図に沿って演出しますよね。ブログは、書き手の側に、編集者やディレクターの権限もありますから。うっかりすると、自分の性格が、そのまま公開されてしまう。ただ、そのことは悪いことばかりではなく、旬な情報を、活き活きとダイレクトに表現できるという点で、これまでにはなかったメディアともいえると思います。

杉山/そうですね。

-ブログに書かれていますが、杉山さんは下書きを書いた記事の中で、公開しているものは一部ということですが…。

杉山/新聞記事や講演会などから書くネタを見つけたりすることもあるのですが、書いているうちに興味が薄れたり、タイミングを逸したりして、そのままになっているものも多い。書きはじめてから、うまく最後までまとめられなかったものを下書きのままにしています。それは自分自身が、じっくりと読めるようなブログが好きだからということが大きな理由です。

-確かに、杉山さんのブログは、内容はもちろんですが、ユーモアを交えたり、落ちも計算されていたりそのうえで伝えたいことはしっかりと表現している、そんな印象があります。ところで、今でも下書きのまま寝かせている記事はたくさんあるのですか?

杉山/半分くらいは、下書きのままじゃないかな(笑)。

-杉山さんのブログには「ブログの事」というカテゴリがあり、ほぼ毎月ブログについて書かれていますね。

杉山/月に1回は、“ブログとは何ぞや”みたいなことを考えてみたいな、と思って「ブログの事」というカテゴリを作ったんです。

「kittsan流ブログの意味(3)」という記事では、杉山さんのブログに対するスタンスについて書かれていました。その内容が、ブログというメディアの特徴を的確に捉えていたことに、驚きました。一部を抜粋しますね。

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・まず、タイトルはたいへん大事、よく考えて決める。 
 ・堅い話、過激な話、悲しい話は表現の仕方をやさしく、やわらかなものにする。
 ・字は読まないと言うけれど、そんなことはありません。
  文面がその人の個性を物語る。 
  画像でブログを継続できるのはプロでしょう。
 ・文章は短く、志賀直哉風、清少納言流に。
  (、点)(。丸)で行を変え、話の区切りでも一行空け、
  出来るだけ読みやすい工夫をする。
 ・ユーモアのセンスをどこかに入れて、読後をさわやかにしたい。
 ・ 文章は自分と誰かが対話をしているような言い回しを加える。 
 ・ わざわざ訪問してくれて、しかもコメントを頂いたことに感謝し、
  返事はかならず書こう。
 ・毎日書きたいが、毎日アップすることもない。
  残しておきたい事だけを公開する。
 
「たかがブログ、されどブログ」
そんな気分で、細く長く続けていきたいです。 


(「kittsan流ブログの意味(3)」より抜粋)
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書きはじめて3ヶ月で、ここまでブログのツボを客観的につかんでしまうなんて、杉山さんはただ者ではない、と思いました。杉山さんのブログがとても読みやすい、別の言い方をすれば“読後感”がいいのは、読み手のことをきちんと考えて書いているためだとよくわかりました。


杉山/そういってもらえるとうれしいですね。できるだけ一行で簡潔に書こうとか、書き出しはちょっと変えてみよう、など考えるのが好きなんです。

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Posted by eしずおかコラム at 2009年01月19日00:00 | 6.杉山吉孝さん
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