今月の物語の主人公は・・・
映画『子宮に沈める』主演・伊澤恵美子(いざわえみこ)さん
9歳の時、静岡で北村想氏の舞台に出演したのをきっかけに女優を志すようになる。以来、静岡で舞台での活動を続け、高校時代には毎月一本のペースで新作舞台の公演を行った。大学進学とともに上京、活動の場を映像作品へと移し、映画、TV、CMなどで活躍。近年は子供の教育にも興味を持ち、立教大学等で演劇を使ったコミュニケーションの授業の講師アシスタントを務める。また、文房具好きが高じて「文具姫」と称され、文房具のコラム連載や雑誌、TV出演など多岐に渡り活躍中。出演作『知らない町』が2014東京国際映画祭に正式出品。2015年には日本とタイの国際共同製作『アリエル王子の監視人』主演が決定している。
◆伊澤恵美子公式サイト「EmikoIzawa Official Site」
◆映画『子宮に沈める』公式サイト
・上映情報
静岡シネ・ギャラリー http://www.cine-gallery.jp
2014年10月18日(土)~24日(金)
※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史さんです。
※この記事は、全2回のインタビューのうちの1回目です。
≫インタビュー2回目はこちら
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大阪市で実際に起きた育児放棄(ネグレクト)事件をもとにした映画『子宮に沈める』。今回お話を伺ったのは、本作品で2児のシングルマザーとなり、次第に社会から孤立し追い詰められていく女性を演じた、静岡市出身の俳優・伊澤恵美子さん。静岡での映画公開に先駆け、作品に込めた思いや映画を通じて伝えたいことを話していただきました。
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|魅力を感じていた監督からのお誘いがきっかけ
-ご無沙汰しています。2011年に「シズオカ×カンヌウィーク」のイベントでお会いした以来ですから3年ぶりでしょうか。
伊澤/もうそんなになるんですね。
-今日は、伊澤さんが主演された映画『子宮に沈める』についてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。
伊澤/よろしくお願いします。
-この映画は、実際に大阪で起きた育児放棄(ネグレクト)の事件をもとにした作品ですね。
どのようなきっかけで、この作品に出演することになったのですか?
伊澤/監督の緒方さんとは以前、別の作品のオーディションでお会いして、そのときのことを緒方監督が覚えていてくれたようです。
伊澤/緒方監督の作品は、家族からの虐待とリストカットをあつかった映画『終わらない青』や、人形偏愛症の孤独な青年を取り上げた『体温』など、どちらも社会問題を扱っています。
伊澤/とくに、最初の作品『終わらない青』を見た時に「この人は、強烈に撮りたいものをもっている人なんだな」という印象を持ちました。わたしは、そこに魅力を感じていました。
伊澤/『子宮に沈める』については、緒方監督から「次回作は、ネグレクト(育児放棄)のことをやりたい。その主演をお願いしたい」と声をかけていただいたことがきっかけです。わたし自身は、ネグレクトについて詳しく知っていたわけではありませんし、子どもどころか、結婚もしていませんが、自分が魅力を感じていた監督でしたので「ぜひやってみたいです」とお答えしました。
|事件ではなく役者としてどうアプローチしていこうかを意識
-作品の内容を知った時は、どんな気持ちになりましたか?
伊澤/大阪の事件のことを知ったときは、単純に「ひどい母親だな」という印象でした。ニュースで知り得た情報だけで、短絡的にとらえていました。事件の背景も知りませんでしたし、そもそも深い背景はニュースには取り上げられないですよね。
-はい。
伊澤/ただ、緒方監督は、もっと違う視点で撮りたいんだな、とは感じました。
伊澤/ネグレクトについては、育児を知らないことが、役を演じる上では難しいことになるだろうな、と想像できました。しかし、「事件」としてよりも、役者としてどういう風にアプローチしていこうか、ということを意識しました。
-育児書や虐待についての本を、何冊も読んだそうですね。
伊澤/ええ。お母さんたちが読んでいる育児雑誌からネグレクトに関する本まで、かなり読みました。それから、子どもが集まる場所に出かけてお母さんの仕草を観察してみました。実は、監督からは、あまり勉強しないでほしい、と言われていたのですが。
-知らずに演じるにはテーマが重かった?
伊澤/母親という役を演じるためにも、育児についてや事件の背景をしっかり知って、自分なりに咀嚼しておきたかったんです。赤ちゃんを抱くにも、自然に見せるには、体験しておくことが必要ですから。でも、テーマが重いだけに、予想以上に勉強はきつかったです。虐待に関する本では、途中で読めなくなってしまうこともありました。
|演じる役にはストイックに向き合う
-勉強は、演じるうえでプラスになりましたか?
伊澤/はい。でも、現場に入ったら、準備してきたことはすべて捨ててしまいます。リセットする。カメラの前では、本で読んだことを再現するのではなく、監督の指示のもとで、あくまで自分の人生に溜め込んだものとして演じます。
-緒方監督は、この映画はストイックな方に演じてもらいたい、と考えていたようですね。
伊澤/ははは(笑)。私生活はダラダラですが、役者としてはそうありたいと思っているので、そう言っていただけるとうれしいです。たしかに、役については、とことんのめり込むタイプだと思います。
伊澤/事件を起こしてしまったお母さんは、自分からは遠い存在だと思っていましたが、調べれば調べるほど、自分にも虐待をしてしまう可能性がどこかにあるかもしれない、と思うようになりました。演じる役を自分自身のことのように感じられるまで、徹底的に突き詰めて考えましたね。
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