今月の物語の主人公は・・・
サンクデザインオフィス社長/『Baratee』編集長・孕石直樹（はらみいし なおき）さん


　1970年島田市生まれ。横浜商科大学を中退し、20歳でバイクレーサーを目指す。26歳の時に株式会社アルバイトタイムスで制作オペレーターを始め、グラフィックデザインの世界へ足を踏み入れる。その後、広告代理店、デザイン事務所を経て、2002年、32歳でサンクデザインオフィスを立ち上げる。2008年、自社媒体のフリーマガジン『Baratee』（バラッティ）を創刊。2015年、『Baratee』をフリータブロイド紙にリニューアルし、同時に、売本『BARATEE』を新創刊。 NPO法人 SVC（しずおかコンテンツバレーコンソーシアム）の戦略メンバーとして「街クリ」を運営。2016年7月より『Baratee』編集長就任。静岡市葵区七間町に移転した新しいCCC（静岡市文化クリエイティブ産業振興センター）の戦略メンバーとして、デザインを核とした様々なイベントを企画運営予定。


※聞き手は、（株）しずおかオンライン代表／海野尚史さんです。
※この記事は、全4回のインタビューのうちの3回目です。
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≫2回目のインタビューはこちら
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｜やりたいことと責任

孕石／今は、この世界に入ったころに熱く語っていたことをブレずにやってこられたことが、とてもハッピーなんです。

－ええ。

孕石／エッジの立ったことをやるためには、お金の工面や、組織をちゃんとしなくてはいけません。今は社員も20名ほどになって、多くの人を巻き込みながら、自分のやりたいことができる環境に近づいてきているんですけどね。

－なにか、問題が？

孕石／最近よく考えるのは、自分のやりたいことを、社員もやりたいと思ってくれているのかな、ということ。僕のやりたいことをやることで、みんなに迷惑かけていないか、と。

－最近というのは？

孕石／バラッティを始めて、少ししてからですね。それ以前は、いつか自分がやりたいことを実現したい、そんな思いだけで頑張れたんですけど、それが仕事になると責任もついてきます。いつも「おまえ、やりたいことやったら、それが正しいことか、逃げずにちゃんと見ろよ」と言われている気がするんです。



－正しいことか、責任を果たせているかどうか、どんなモノサシで図るのですか？

孕石／これがよく分からなくて。それこそ諸先輩方に「みなさんはどうだったんですか」と聞いてみたいことなんです。海野さんはプレッシャーを感じませんか？

－もちろん感じていますよ。うちは90名ほどの社員がいます。創業当時は独身者がほとんどでしたが、今では、結婚して、お子さんが生まれて、家庭を持つ社員も増えています。社員の家族まで含めれば300名、取引先も含めたらそれ以上の人たちの生活を支える責任を感じます。

孕石／はい。

－それに誰でも、今日より明日、今年よりも来年と、もっと豊かな暮らしをしていたいと願っているはずですから。今のように先が見えない時代に、それらを叶え続けることは簡単なことではありません。

孕石／そうですよね。


｜経営者としてのクリエイション

－以前、これからの働き方、会社のあり方に関心がある、と話していたのは、今のお話と繋がっているんですね。

孕石／はい。まさしくそれが、今の僕にとっての究極のクリエイションであり、やりたいことです。まだまだ経営は順調とはいえませんが「バラッティ」事業がある程度カタチになったら、次は社員一人ひとりが、その人の実現したいことにチャレンジできる環境を作らないといけないと思っています。

－見た目のデザインから、それらを生み出す組織や環境作りへと、デザインの関心領域が広がってきたのかもしれないですね。

孕石／シンプルに言えば、自分がやらせてもらったから、みんなにもそれができる環境を作りたい、ということなんですけど。

－素晴らしい。



孕石／バラッティもやり続けますが、これも次の誰かにバトンを渡せたらいいな、と思っています。そして、その社員が、静岡をおもしろくする人に育っていく。そうして、楽しんでいる大人たちが静岡に増えていく。これが僕にとってのクリエイションなんです。もう一人の僕が、そう囁くんです（笑）。

－社員やクライアントと折り合いをつけて、組織をまとめている経営者としての孕石さんの中に「やりたいことをやれ！」とハッパをかけるもう一人の孕石さんがいるわけですね。

孕石／そうですね。


｜編集長就任について

－やりたいことができなくなりそうだからとバラッティ編集長は引き受けなかった孕石さんが、ある時期に「やりたいこととバラッティ編集長の仕事が合体した」と言っていました。どんな心境の変化があったのですか。

孕石／やりたいことができなくなりそうだから…という理由よりも、サンクデザインオフィスの代表としての役割とバラッティ編集長という役割がイコールじゃなかったから。僕はデザイン業務も含めてトータルで会社をみる立場でもあったので、編集長という雑誌に特化したポジションには就きづらかったというのが正しいでしょうか。

－そうでしたか。



孕石／まだ雑誌がどういったものになるかが見えていなくて、自己発信というものだけをまず考えていました。編集長という役割がどのようなものになるか分からなかったので、別の人間をおいていたというわけです。

－それが変わってきた？

孕石／最近はバラッティの目指す方向が、サンクデザインオフィスが本当に目指したい方向なのではないかと考えはじめ、だったらバラッティの編集長になって実践で確認していくことがてっとり早いと思ったんです。

－なるほど。

孕石／まだ途中なのですが、今後迎えるだろう株式会社サンクのブランディングコンセプトは「株式会社サンクは、『創造することと語り合うこと』を通じて、『素敵なデザインとおいしい暮らし』を社会に伝えていく会社です。」として考えはじめています。

－はい。

孕石／会社内だけでなくいろんな人たちの意見を聞くことで本当に僕たちがやらなきゃいけないことが見えるのではないかと思って就任しました。心境の変化というよりはいい感じでステップアップできたのかなぁという感覚です。


｜静岡のデザイン業界が元気になるために

－雑誌でいろいろな企業や注目の人を取材されていますね。孕石さんの課題解決につながるヒントや発見はありましたか。

孕石／たくさんありました。僕は、いいことは素直にマネすればいい、と考えているので、すぐにマネしています。



－たとえば？

孕石／トランジットジェネラルオフィスという会社がありまして。この会社は、パンケーキブームの立役者である「ビルズ」や、かき氷の「アイスモンスター」というお店など、流行を作るのが上手な企画会社です。そこの社長さんを取材した時に、こんなことを言っていました。

「何かを流行らせたいのなら、周りから盛り上げていったほうがいい。自分たちのパンケーキを流行らせたいのなら、自分たちのお店を宣伝する前に、競合他社のパンケーキ屋さんを、いろいろな機会に取り上げてもらえるように働きかけること。最初にパンケーキ市場全体を盛り上げて、流行る土壌を耕しておいてから、その中で自分たちの商品をその特徴を際立たせてアピールする」

孕石／ライバルも含めて盛り上げることで、マーケット全体が広がって、結果として自分たちのメリットも大きくなるんですよと。

－マーケットがニッチなままでは、そこで勝っても小さな成功でしかない。小さな成功よりも、大きな成果が大切だと。



孕石／そうなんです。バラッティをもっと成長させようと思ったら、まずは静岡のデザイン業界や雑誌全体を盛り上げるところから取り組まなくては、と。それで『womo（ウーモ）』の風間編集長や『すろーかる』の小田編集長にも声をかけるようになって、2015年のイベント「街クリ」ではwomoさんと一緒にパーティーを開催させていただきました。

－「街クリ」には、そんな経緯があったんですね。

孕石／同業者の僕が声をかけると、何か企んでいるんじゃないかと思われるかもしれませんが、そうではなくて、トランジットの社長さんのやり方を、さっそく自分に置き換えてマネしてみたんです。

－悩むより実践ですね。

孕石／僕らは手弁当になっても構わないから、『womo』さんや『すろーかる』さんが盛り上がってくれれば、それがきっとバラッティにもプラスになるはずだと。 CCC（静岡市文化クリエイティブ産業振興センター）の戦略メンバーに参加するようになったのも、静岡のデザイン業界全体が元気になれば、という同じ思いからです。

－ステキなアイデアですね。



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