今月の物語の主人公は・・・
働く女子大学 うるおいプラス 校長 内田 美紀子(うちだみきこ) さん

キャリアコンサルタント。求人情報誌の営業・編集・マーケティング、首都圏での人材派遣会社の支店運営の業務など、人材ビジネスの会社にて15年間の経験後、2003年に独立。高校生や女性のキャリア支援サポートの業務に携わる。2006年、地元静岡に帰省し(公財)就職支援財団の事務局長として学生のキャリア支援に従事。地域の女性のキャリア支援の講師も平行して携わる。静岡市女性会館のキャリア相談員。2012年11月、女性のキャリア支援の株式会社るるキャリア設立。
◆うるおいプラス校長 内田美紀子ブログ
http://uruoiplus.eshizuoka.jp/
◆働く女子大学 うるおいプラス ホームページ
http://www.uruoiplus.jp/
※インタビューの聞き手は、(株)しずおかオンライン代表・海野尚史さんです。
※内田 美紀子さんへのインタビューは全3回に分けて公開します。
≫第1回はこちら
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|女性が活躍できる企業のあり方とは
―女性がのびのび活躍できる職場環境づくりのためには、企業が変わる必要がある、ということをおっしゃっていました。頑張っている女性を応援するために、企業の何が変わればいいのでしょう?
内田/難しい質問ですね。中小企業と大企業では考え方が違いますし。企業側は、いつ辞めてしまうかわからない女性にどこまでまかせていいのか見極めが難しい。結局まかせきれないという声が多いんです。女性が本気でその会社で働いて戦力になってくれるかどうか分からないので、「所詮女性」ということになってしまう。もっと活躍してもらいたいと思いながら、現実はまかせきれない企業がすごく多いです。海野さんの会社はどうなんですか。
―わたし自身が、男性も女性も関係なく働く職場しか経験してこなかったので、意識したことはなかったです。営業でも編集でも、社員一人ひとりの経験や能力、適性などを考慮しながらまかせるようにしています。それが普通だと思っていましたし、今も普通にやっているつもりなんですけど・・・。でも、社員がどう感じているかはわかりませんよ。

内田/実態としては、そのような会社は少数派です。多くの会社では、結婚したら辞めないといけない雰囲気の会社がまだまだ多いようです。もちろん、結婚後も仕事を続けている人は増えていますが、本人たちはしっかり割り切ってます。完全に。
―でも、企業の側にも変化の兆しはあるでしょう?
内田/中小企業においても考え方は両極端ですね。女性の活用に積極的な会社は、経営者が2代目、3代目に変わっているところですね。
―経営者の世代交代が、早く進むといいですね。
|自分の意志を伝えることが、会社の利益になることもある
―女性が感じている閉塞感というのは、社内で評価されないと感じたり、将来も自分への期待役割が変わるように思えないということですか。
内田/そうです。それに加えてとにかく業務が忙しい。先日も、営業事務の女性たちが集まってこんな話をしていました。「土日に展示会があれば、男性社員は展示会に出勤して振替休日が取れる。でも、私たちが平日に振替休日をとったら業務がストップしてしまう。とてもじゃないけど振替休日なんて取れないんです」と。彼女たちは日常業務に忙しくて、業務以外での上司と部下とのコミュニケーションさえも充分には取れていません。もしかしたら上司はしっかり見ているのかもしれませんが、そうであるなら言葉にしてそれを本人たちにきちんと伝えてあげるとか、適正に評価することが必要です。そういう扱いを、彼女たちはされていません。
―そのうえ、相談できる先輩社員もいない。
内田/もう一つは、管理職ではないけれど中間管理職のような役割の女性がすごく多い。上司がいて後輩が入ってきて、その間で悩んでいる人たちです。上司が言うことには納得できないけど強く言えないし、後輩からはいろいろ言われるし。それで、コミュニケーション力を高めて対処しようとしている女性たちがたくさんいます。
―彼女たちには、どんなアドバイスをされるのですか。
内田/個別面談ではなく、相手に論理的に伝えるコミュニケーション手法を学ぶアサーティブの講座を勧めます。
―アサーティブとは何ですか。
内田/アグレッシブで攻撃的な人と、ノンアサーティブで主張できない人の中庸のところをアサーティブといいます。自分の意志はきっちりと伝えつつ、相手の立場も尊重するということです。自分の都合だけで意志を伝えるのではなくて、時には「私が今、NOというのはそれが会社の利益につながるため」ということをいわなければいけない時もあることを伝えます。個別相談では、その方の状況によって「今あなたが全部を受けとめた場合、自分自身が潰れるかもしれない。引き受けた時に、それはすべて会社の損失になってしまう可能性もあるんですよ」ということを伝えることもあります。
―コミュニケーション・スキルを学ぶことに加えて、自分の置かれている状況を俯瞰する客観的な視点をもつことも大切ですね。
内田/悩んでいる女性には責任感の強い方が多い。上司の指示を断るということが、彼女たちの辞書にありません。言われたことは全部やるのが当たり前。なので、そんな発想を変える必要があります。状況によっては、断ることも会社のためにプラスになることもあるんですよ、というふうに。
|「仕事をまかされたい、でも昇進はしたくない」の本音とは?
―昇進はしたくないけど働きたい、仕事自体は好きです、という声もあるようですね。それはどういうことですか。
内田/管理職になりたいとか、もっともっと高い報酬をもらいたいとか、そういうことが目標ではない。でも責任のある仕事はしたいということです。バリバリ仕事するとか、いわゆるキャリアウーマンのイメージに魅力は感じないけれど、仕事をまかされたいし責任のある仕事をしたい。アイデアも持っているし自分の力で提案を通したいと思っている。上手く説明はできないんですけど・・・。
―内田さんは、彼女たちのそんな声は腑に落ちている? わたしの中の内田さんは、バリバリのキャリアウーマンの道を歩んできたというイメージなんですけど。
内田/そうですか。
―自分の提案を通して、責任ある仕事を次々にまかされてステージを駆け上がっていく、そんなキャリアを歩んできた人というイメージがあります。実はそうでもない?
内田/私は、管理職になりたいと思ったことは一度もなかったんです。
―それは意外ですね。

内田/たしかに昇進の話は何度かいただいたんですが、断り続けて。そうしたら上司に「受けてもらわないと困るんだけど」と言われました。押し問答の末に「そんなに困るんだったら、分かりました。チャンスだと思ってやります」といったことはありました。
―それで、どこまで昇っていったんですか。
内田/結局、部長を経験して、最後は取締役までやりました。
―やっぱり。素晴らしい。
内田/はい。ありがとうございます。
―先ほどの「自分の企画は通したい、責任のある仕事も嫌ではない、でもポジションにつくのは困る」とはどういうことなんでしょう。
内田/自分で経験して分かったのですが、管理職というポジションをもらったら、仕事はもっと面白くなりました。それを目指していたわけではないんですけど。
―やってみたら面白くなったというのは?
内田/自分の望む数字、予算を獲得すれば、それで自分の好きなことができます。役職が上がれば、自分の裁量で動かせる予算も、組織も大きくなる。仕事のレベルがそれまでとは全然違っていくことが面白かった。大変だけど、成長できる機会をもらえたというのが大きかったです。
―今は管理職が目標ではないという人たちも、自分の知らない仕事の面白さを経験することで、仕事感が変わるかもしれませんね。
内田/女性たちには男性の管理職のイメージというものがあって、それと自分を照らし合わるとまったく違う、と思っているのかもしれません。「昇進はしたくない、でも責任のある仕事はしたい」という女性たちには、「あなたが思っている管理職像とは違うリーダーシップ像がある。だから、チャンスだと思って引き受けてみたら」ということは伝えたいです。
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