17.しずおか地酒研究会主宰/鈴木真弓氏(2)

2013年01月21日12:00
今月の物語の主人公は・・・
フリーライター・しずおか地酒研究会主宰 鈴木真弓 さん

17.しずおか地酒研究会主宰/鈴木真弓氏(2)

静岡市出身・在住。地域の酒・食・歴史・モノづくり文化を追求し取材歴30年弱。2008年からドキュメンタリー映画『吟醸王国しずおか』を自主制作中。
▼連載コラム「杯は眠らない」 
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|お酒にまつわる仕事が、だんだんとつながり始めたころ

―これまでに何軒ほどの酒蔵を回ったのですか。

鈴木/県内の酒蔵は全部回りました。当時で37、38軒ほどの蔵がありましたね。現在は29軒ほどでしょうか。すべての蔵を回りましたが、それと仕事とは別。駆け出しのライターがお酒について書きたいと思っても、書かせてくれる媒体があるわけではないですよね。でも、自分がお酒に興味を持つようになってから、不思議とお酒に関係する仕事が入るようになりました。なんと、最初は断酒会の取材の仕事。アルコール依存症の方の救済活動をしている方と、お酒の問屋会社の社長さんの対談を記事にするという仕事。酒文化研究所というシンクタンクの仕事でした。

―「思えば通ず」ということでしょうか。それにしても断酒会の仕事とは。

鈴木/次にいただいた仕事が、静岡市内のヴィノスやまざきさんの開業80周年を記念した新聞広告の仕事。この仕事では企画から任せていただき、静岡県内の吟醸酒を新聞裏面の全面広告で紹介しました。ちょうど皇太子様ご成婚の年だったのですが、その広告ではヴィノスやまざきさんが発売を予定していた吟醸酒のネーミングもしたんですよ。まさか、自分にお酒の名前を考える機会がめぐってくるなんて。

―滅多にない、貴重な経験ですね。

鈴木/いろいろ考えた末に、雅子様の名前から一文字いただいて「雅(みやび)ひめ」という名前でデビューしました。その時の新聞広告が、奨励賞という広告賞を受賞。その時はじめて手応えを感じて、「これがお酒の仕事につながるといいなあ」と思った記憶があります。それから、当時掛川市に「これしっか処」という地場産品の販売所がオープンしたのですが、そこで取り扱う県内の酒蔵に同行してほしいという声がかかり、県西部の酒蔵を回りました。
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静岡市の酒販店「ヴィノスやまざき」開業80周年を記念した新聞広告。
県内でいいお酒を造っている酒蔵を応援するという企画。この新聞広告で奨励賞を受賞。

―いろいろな仕事がつながり始め、徐々に酒蔵とのネットワークができていったのですね。

鈴木/その頃です、フィールドノート社(しずおかオンラインの前身)さんが発行していた季刊誌『静岡アウトドアガイド』から「静岡の地酒を楽しむ」という酒蔵めぐりの記事を連載してみませんか、とお声掛けいただいたのは。

―「静岡の地酒を楽しむ」の連載一回目は、95年4月発行号に掲載されています。一回目に紹介した酒蔵が、「喜久醉(きくよい)」で知られる藤枝市の青島酒造さん。ちょうど今と同じ1月頃でしたね。鈴木さんに連れられて青島酒造さんに出かけた時のことを今でもよく覚えています。
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鈴木さんの原稿が掲載された『静岡アウトドアガイド』

鈴木/お酒の記事を署名入りで書くのは、「静岡の地酒を楽しむ」が二本目でした。当時うれしかったことは、多くの酒屋さんがわたしの書いた「静岡の地酒を楽しむ」の記事をコピーして店頭でお客様に配っていたことです。

―それは知りませんでした。それはぼくもうれしいなあ。

鈴木/酒屋さんがコピーしてまでその記事を配っていたのは、当時静岡の地酒をきちんと取り上げる媒体がなかったからだと思います。わたしの書く記事を毎回読んでくれていた常連さんが、「“このライターさん、だんだん文章が上手になってきたねぇ”と褒めていたよ」と、酒屋さんから教えていただいたことも。そんなこともあって、しっかり書かなきゃと、気持ちを引き締めた記憶があります。

|「静岡らしい」お酒、「その酒蔵らしい」お酒の追求


―ところでおいしいお酒が生まれるためには、何が大切だと思いますか?

鈴木/静岡の酒の品質を向上させた吟醸酒というお酒は、手間がかかって時間もかかるお酒です。原料となるお米も高いし、精米率が高く贅沢に使用するのでコストもかかります。さらに、低温で長期間発酵させるので稼働率も悪い。そんな難しい条件を乗り越えて付加価値の高いお酒を造るためには、なんといっても造り手にやる気がなければ造れません。もうひとつは酒造りの技能。腕のいい杜氏さんとやる気のある経営者のパートナーシップが一番大切ではないでしょうか。いい杜氏さんが手当てできない酒蔵の中には、経営者自身が杜氏となって、自分の理想とするお酒を追い求める蔵元もあります。

―静岡のお酒の特徴を説明すると、どんなお酒といえますか。

鈴木/静岡のお酒は、“きれいでまるいお酒”です。“駿河湾の海の幸との相性のいい酒”ともいえますね。静岡は、海も山も近く食材が豊富で、素材のおいしさを新鮮な状態で味わえる食文化があります。素材のおいしさを活かすには、お酒もこってりした味ではなく、スッキリとうまみのある味がよく合います。かといって、新潟のお酒ほどさらさらしてはいません。

―静岡のお酒は、すっきりとしっかりのバランスがいい印象があります。

鈴木/最初はすっきりして物足りないと感じるかもしれませんが、食中酒としておいしい料理と一緒に何杯もおかわりを重ねるうちに、さらにおいしさがわかるお酒だと思います。何杯も飲んでいると、だんだんうま味がわかってきます。一杯飲んで大満足というお酒ではなくて、おかわりしたくなるお酒ともいえるかな。飲み飽きしないお酒。

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静岡県の大吟醸を店頭で初めてお客に呑ませた伝説の料理人・竹島義高さん(故人)。
亡くなる前の2009年3月、鈴木さんが主宰するしずおか地酒研究会の地酒サロンにて。
「静岡の吟醸酒にとって最高の酒肴」と、この日のために幻の興津鯛を用意してくれたそう

―静岡のお酒は、静岡酵母の開発で評価が高まりました。一方で、静岡酵母を使えばどうしても味が似てしまいます。また、お酒にも流行があるのではないですか?

鈴木/そうですね、酵母はお酒の設計図。その設計図を採用するかで方向性は決まります。開発当時は、静岡酵母を使用する蔵元が多かったのですが、それでは、おっしゃるとおりどれも似たような味になってしまいます。それで最近では目指す味と香りのタイプによってほかの酵母をブレンドするなどして、酒蔵ごとに味に特徴を持たせる傾向にあります。静岡酵母を使った静岡の吟醸酒が一定の評価を得た段階から次の段階に移り、最近では個々の蔵元さんが、それぞれの蔵の酒の味を追求し始めている段階だと思います。「國香(こっこう)」さんや「喜久醉」さんなどの静岡らしいお酒を追求する蔵元は、これからも静岡酵母にこだわるでしょうし、静岡酵母をまったく使わず、独自の味を追求する蔵もあります。

―これからは静岡のお酒でも、いろいろな味を楽しめるようになりそうですね。

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Posted by eしずおかコラム at 2013年01月21日12:00 | 17.鈴木真弓さん
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