今月の物語の主人公は・・・
就職支援財団理事長 満井義政 さん
◆プロフィール
満井義政(みつい よしのり)さん
1948年、静岡市清水区生まれ 。中央大学経済学部卒業と同時に株式会社アルバイトタイムスを創業。 代表者として2004年まで求人情報誌はじめ人材派遣、人材紹介などの経営に携わる。 その間、社団法人全国求人情報協会の理事長に就任(95年から03年)。2006年就職支援財団を立ち上げ、大学生を中心に就職をテーマにした支援プログラムを運営。 2007年より静岡大学理事(非常勤)、2009年より静岡銀行監査役(非常勤)。
◆就職支援財団
http://www.shushokuzaidan.or.jp
※この記事は、全6回のうちの4回目です。 (1)を読む /
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|「石の上にも3年」で生まれる自立心
―これから就職支援財団の塾生OBOGを輩出していくために、満井さんご自身は、どのように関わっているのですか。
満井/財団の運営は基本的にはスタッフが中心です。時にはわたしも支援塾生たちと話をすることはありますが、わたし自身は彼らの二世代も上、お兄さんでもお父さんでもなくおじいさんの年齢になりますから、わたしの言葉は彼らにとって過去の成功事例や失敗例でしかありません。残念ながら、彼らが自分ごととしてリアルに感じ取ることのできる言葉にはならないのです。
いかにして彼らの気づきの場を用意するか、その気づきを行動へと橋渡しする人的ネットワークを見つけてくるかが自分の役割ですね。静岡で40年間ほど仕事をしてきましたので、おかげさまで財団の主旨に共感して力を貸してくれる人的ネットワークでは少しはお役に立てていると思っています。
―どんな場面でネットワークを活かせていますか。
満井/最近では、以前からお付き合いのある静岡経済研究所さんと一緒に、若者の雇用環境の市場調査を行っています。塾生OBOGが社会人1年生から4年生まで育ってきましたので、社会人になった彼ら自身が学生時代を振り返った時に何をやっておけばよかったと考えているのか、調査してみたいと考えていました。この調査は6年ほど続けています。
―どんなことが浮き彫りになりましたか。
満井/調査結果によれば、若い人が働き方や仕事に求めるものなどの働く意識は、昔と今もそれほど大差ありませんでした。少なくとも、言葉の上では変わっていません。社会のためとか、自分のためとか、働くことは善であるとか、それらの意識は、どの時代の若者も大なり小なり持ち続けているようです。ただし、世代が共有する価値観に共感する意識は弱くなってきているようです。
―社会人になった彼らが直面する問題があるとすれば、どんなことですか。
満井/社会環境が大きく変化している中で、社会のためにと思いつつも、自分の働く目的と社会との折り合いをどうつけていけばいいのか、今の若者は本当に真剣に考えています。
―それは簡単には答えが出ない問題ですね。悩みもあるのですか。
満井/多くの若者が悩んでいることは、人間関係です。上司や部署、それから同僚などとの人間関係。もうひとつ若い社会人に共通することとして、入社して1年目は居心地がよかったのに、2年目、3年目になるにしたがって職場での居心地が悪くなっていく傾向があります。
―それはどうしてでしょうか。
満井/新入社員である1年目は、本人たちも企業側も“お客さん”なんだと思います。採用した企業側は、入社1年目は社会や会社に適応する期間としてそれなりに受け入れ態勢を整えて迎え入れる。新入社員はそのような環境の中で、意欲も高く、やりがいを感じながら過ごすことができます。それが2年目になると、明らかに意欲が低下していきます。
―2年目に入ると何が変わるのですか。
満井/当然ながら、会社も先輩社員も次の新入社員へのサポートを厚くしますよね。2年目の社員は、いままで見守られていた安心感がなくなり不安になるのではないでしょうか。
―弟や妹が生まれると、上の子どもが落ち着かなくなるのと似ていますね。
満井/同じだと思います。それが、3年目、4年目、5年目になると、また仕事に対する意欲が復活してきます。自分が新入社員の時に直面した同じ課題や問題を抱えた後輩を見ていると、先輩として教えようとします。そして、人に教えることで自分に自信がついてくる。もちろん、中にはそこまで継続できずに辞めていく若者もいますが。
先ほど財団の話で、高校生に「これって何ですか」と聞かれた大学生が上手く答えられずにしどろもどろになる、という話をしましたが、大学生は一生懸命に答えた後に、もう一度調べてみて自分の回答が間違っていないか確認するわけです。そこで、自分の知っていること、知らなかったことの気づきが自信につながり、成長していきます。そのプロセスと同じです。
―昔から「石の上にも3年」といいますが、まさに3年頑張り続けることができれば次第に自立心も生まれ、一人前に成長していくのですね。
|個人の成長の実感と、会社の成長は一致するのか
―就職活動中の学生からは、「成長したい」というキーワードもよく聞かれます。以前は、成長するとかしないとかではなく、その会社に入社したら何ができるかに関心があったように思います。若い人の間で、成長そのものが目的化していることはありませんか。
満井/たしかに成長感を期待する声は大きいかもしれませんね。そこには、会社に入れば成長させてくれるだろうという意識があるのかもしれません。そのことと、仕事を通して主体的に自己成長することとは、ちょっと違うかもしれません。
―成長ということでいえば、企業に期待される成長の在り方にも変化が起きているのでは。これまで企業の成長といえば、事業が成長し、売上や利益が伸び、社員数が大きくなることと同意語でした。経営側も社員も、大きくなることを目指して頑張ってきた。でも最近では、大きくなるという成長感だけでは、若い人を引っ張っていくことはできなくなってきているように感じます。彼らのやりがいに応えられる、新しい価値観が必要になってきている。これから若い社員に気持ちよく働いてもらうために、何がインセンティブになるのでしょうか。
満井/成長の実感をどこに求めるのか、ということですね。不幸にして二十数年間、日本経済は右肩下がりの状況にあります。海野さんが会社を始められてからずっと縮小しているわけです。そんな時代に海野さんがどんな価値観で社員を引っ張ってこられたのか、どうやって会社を成長させてきたのかを聞いてみたいですね。そのあたりは実感としてよくわかっていないのです。
実は、全体で見れば右肩下がりの時代ではありますが、過去最高益、好決算という会社はたくさんあります。でも、会社の業績が個人にフィードバックされていないのでは。給与や賞与に還元されたり、自分の仕事領域が広がったり、職場がちょっときれいになったり、そのような目に見えて実感できる快適感が感じられません。若い人たちは、そのことに気づきはじめたのではないでしょうか。
―会社の成長と個人の成長が、必ずしもつながらなくなってきている、ということですね。
満井/今は、海野さんたちが入社してきた時代と違います。「自分がやりたい仕事をやりたい」という人たちが集まって、会社側は「やりたい」と手を挙げた人に「では、あなたがやってください。会社はお金は出しますから」という雰囲気はありません。当時は、そんな社員たちのガンバリとともに会社が大きく成長し、社員たちも自分の処遇や職場環境が目に見えてよくなっていく実感があったような気がします。どうですか。
―そうですね、自分が頑張れば、会社も自分がおかれている状況も変えられると信じていました。いまも企業側が環境さえ用意してあげれば同じように頑張ると思うのですが。違いがあるとすれば、どこまでのめり込めるという深さや徹底度かもしれません。みなさん、冷静ですから。
満井/社内が盛り上がっていても、世の中が冷めているから、そこまで熱くならなくてもいいか、ということでしょうか。
―仕事も遊びも面白いところは核心にあって、一歩も二歩も踏み込んでいかないと到達できないですよね。でも、痛みや傷を負うのは嫌ですから、そこまでは踏み込まない。自分なりに冷静に分析して、そこそこの満足感、達成感を得られたら良しとすることもあるのでしょう。
満井/喧嘩をして、初めて和解できます。始めから和解はありません。喧嘩という作業を通してわかり合え、そこでひとつ知り得るのです。知らないことを知らないと言って何が悪いんだ、と言えることが大切なんだと思います。
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