20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(1)

2013年05月13日12:00
今月の物語の主人公は・・・
演出家 SPAC- 静岡県舞台芸術センター芸術総監督 宮城 聰(みやぎ・さとし) さん

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(1)

1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。
07年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、また、静岡の青少年に向けた新たな事業を展開し、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。

◆SPAC公式ウェブサイト http://www.spac.or.jp

※宮城聰さんへのインタビューは全6回に分けて公開予定です。

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|静岡を、劇場のある街、文化のある街に

―6月から開催される「ふじのくにせかい演劇祭2013」に先駆けて、SPAC(スパック) - 静岡県舞台芸術センターの取り組みと、芸術総監督である宮城さんが目指していることについてお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
※注釈 「ふじのくにせかい演劇祭2013」の正式名称は「ふじのくに」と「せかい」の間に矢印の記号が入ります。ご覧の環境によっては正しく表示されないことがあるため、本インタビューにおいては表記を省略しています。正しい表記は、こちら<SPACサイト>でご確認いただけます。

宮城/こちらこそ、よろしくお願いします。

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(1)

―SPACは1997年からスタートして、今年でちょうど16年経ちました。以前宮城さんは「SPACこそ、本当の公立劇場」と話していましたが、思い描いている姿に近づいてきましたか。

宮城/SPACができたと聞いた時に僕は、とうとう日本もここまできたか、と思いました。それまでの日本の文化政策は、健康で文化的な最低限度の生活の保障という考え方の延長線上で、東京で上演されたものを時々は地方の人にも見せてあげましょう、というものだったわけです。地方の公立劇場のほとんどは、東京で作られた作品を再演する場ということです。東京のありがたい芸術を、時々はわが街でも見られますよ、と。地方における芸術の予算は、そのほとんどがそういうことで使われてきました。

―日本における地方の文化政策とは、東京で評判のいい作品をわが街に持ってくることだと。

宮城/そうです。一方、ヨーロッパは、国と国は地続きですから移動もしやすい。人は、どこに住むか、どの国の、どの街の市民権を得たいのかと考える時に、その街の文化をひとつの判断材料として住む場所を決めるわけです。街は文化度で比較されてしまう。その人にとって魅力があれば「ぼくは、わたしはこの街に住みたい」と思うわけです。つまり、街に文化的な特徴がなければ、他の街と差別化できない、主張できないのです。

20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(1)


―イタリアにしろドイツにしろ、ヨーロッパは国単位ではなく、都市単位で語られることが多いですね。ミラノとローマは違いますし、ベルリンとミュンヘンも、パリとカンヌも違う。街にオペラ座があったり、公立の楽団を持っていたり、ファッションや映画の街など、街がもっている個性とはそういう背景があるのですね。

宮城/ベルリンに住んでいる人であれば、自分たちにはベルリンフィルがあるとか、国立オペラ劇場があるとか、そういう文化的なフラッグが街のアイデンティティーにつながっているわけです。街の文化的な特色で、自分たちの街をアピールする。ヨーロッパの街で、歴史的に文化が大切にされてきた理由がそこにあります。

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―日本では街のイメージが漠然としていますね。

宮城/日本人は長い間、偶然自分が生まれ育った場所にずっと住み続けてきました。ですから、地域がわが街のアイデンティティーを主張する必要もなかったんだと思います。貧困や飢えるということがなくなり、誰もが経済的に安定した暮らしができるようになってはじめて、自分が住む場所を自由に選ぶという欲求が生まれます。これは、収入を得るために移住せざるを得ないというのとは違います。その結果、首都圏は人口が増え、地方は人口が減るということになりました。東京一極集中といわれて久しいですが、いまだに地方から首都圏に人が集まってくる。それは、いまでも多くの人が東京という街に魅力を感じているからです。

―東京の何が人を惹き付けるのでしょう?

宮城/東京に行かないと仕事がない、というわけではないですよね。どちらかというと東京に住んでいる人の方が生活的には厳しい。狭い家に住み、通勤時間も長い。それでも人々が東京に暮らしたいと思うのは、そこに文化があるからでしょう。人間は広い家に住むことよりも、文化的な刺激を求めるもの。全員とは言いませんが、そういう側面があることは確かだと思います。

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―地方にもいいところはあります。

宮城/地方の人が地域のアイデンティティーを語る時に、自分たちの街には歴史がある、とか、美しい自然に囲まれている、豊かな人情が残っている、などと紹介します。日本全国どの地方でも同じことを自慢している。それでは差別化にはならないし、何も言ってないのと同じです。

―静岡県民に同じ質問をした時に、演劇を核にした文化があるから静岡県に暮らしたい、と思ってもらえることが大切ですね。そのために、全国で唯一の専用劇場を持った県立劇団がある。

宮城/SPACがきっかけとなって、静岡県の文化を育て、その文化をアイデンティティーとしてアピールできるはず。「静岡県は素敵な場所ですよ」「東京とは違う魅力的な文化があるでしょう?」と。SPACが誕生したことで、文化を元に地域の魅力を発信できる、そのスタートラインにようやく立ったわけです。最初に僕が「日本もここまできたか」といったのは、まさにそういうことです。

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【お知らせ】

(1)eしずおか内に「SPAC - 静岡県舞台芸術センター」の専用ブログができました! 

SPACのスタッフが、公演情報等をアップしています。ぜひご覧ください。
 ▼SPACブログ 
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(2)2013年6月1日から6月30日まで開催される「ふじのくにせかい演劇祭」。
 インタビューの合間に、宮城さんに見どころを話していただきました!


20.SPAC芸術総監督/宮城聰氏(1) 宮城 「今回ぼくは、ジャン・ルノワールの名作映画に着想を得た『黄金の馬車』という作品を演出します。劇中劇に古事記を取り上げています。室町時代、土佐に旅役者の一座が流れて来て、劇団はその土佐の国司の前で古事記をやることになります。そして国司と女優が親しくなり、政治が混乱してしまうという、老若男女、誰でも楽しめる作品です。

 もうひとつは、ドイツをはじめヨーロッパで大ヒットしたヘルベルト・フリッチュの『脱線!スパニッシュ・フライ』。これはドイツの名優たちによる、体当たりのナンセンスコメディーです。ドイツ演劇というと難しいイメージがありますが、それと真逆をやって大ヒットしました。これまで日本では紹介されていない、注目の作品です。

 最後に、清水港のマリンパークイベント広場で上演される『夢の道化師~水上のイリュージョン』と『ベトナム水上人形劇』もおすすめです。無料の野外公演です。今ヨーロッパで最も注目されている野外パフォーマンスカンパニーと、ベトナムを代表するハノイの水上人形劇団。どちらも、壮大で詩的な水上パフォーマンス。それにベトナム水上人形劇では、三保の松原にちなむ『羽衣』という新作も世界初演されます。この機会に、ぜひご覧ください」

 ▼ふじのくにせかい演劇祭 公式サイト
 http://www.spac.or.jp/fuji2013_index.html



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Posted by eしずおかコラム at 2013年05月13日12:00 | 20.宮城聰さん
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