今月の物語の主人公は・・・
甲賀 雅章(こうが まさあき)さん
1951年静岡市生まれ。株式会社シーアイセンター代表取締役プロデューサー。インテリア、ディスプレイ、デザイン・編集会社を経て1975年株式会社トマト設立。1985年(株)シーアンドシー、1991年(株)シーアイセンター設立。 広義の意味でのデザイン、文化戦略を、21世紀型経営の最重要資源として位置づけ、 企業、組合、商店街、地方自治体等の活性化におけるコンサルティング活動を展開。CI戦略、ブランディング、コミュニケーションデザイン、新商品開発、新業態開発、空間プロデュース、イベントプロデュースと活動領域は広く、2009年地域・社会の問題をデザイン思考で解決すべく、ソーシャルデザイン研究所を設立。 2011年4月からは川根本町文化会館の事業パートナーとして企画運営に携わる。
2011年6月静岡県榛原郡川根本町千頭、山間の里にCafe&Gallery「Ren」をオープン。
1992年、大道芸ワールドカップIN静岡を立ち上げ、今日に至るまでプロデューサーを務める。2012年4月から大阪府江之子島文化芸術創造センター館長に就任。 2012年12月よりバンコクSiam Street Festのプロデューサー、 2013年4月、阿倍野を中心に開催される「大阪国際児童青少年アートフェスティバル」プロデューサーに就任。
◆ソーシャルデザイン研究所
http://sd-lab.org/
◆シーアイセンター
http://www.ci-center.net/index.html
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|ビジョンを作るのが仕事。でも、自分のビジョンがないことに気づいた
-お久しぶりです。今日はどんなお話を聞けるのか楽しみです。よろしくお願いします。
甲賀/はい。よろしく。
-最近は、街中や新幹線などでばったり出会って立ち話…みたいなことが多くて、じっくりお話を聞くのは久しぶりですね。
甲賀/海野さんは温かい人のふりしてるけど、つき合いは冷たい男だからね(笑)。
-そんなことないですよ(笑)。ここに来る前にホームページを見てきたのですが、肩書きがますます増えてますね。
甲賀/そう、いろいろあるんだよ。
-いま甲賀さんの中で中核となっている仕事を3つあげるとしたら、どれですか?
甲賀/仕事の種別ということであれば、プロデューサー業とデザインのアートディレクター業、もうひとつはコンサルティング業の3つかな。
海野/ふつうの人にわかりやすく説明すると?
甲賀/うーん、そうだな・・・。
-大道芸をやっている甲賀さん、大阪の江之子島文化芸術創造センター館長の甲賀さん、それから韓国やタイを飛び回っている甲賀さん。断片的な姿は見えるんですけど、甲賀さんの実態がよくわからない。
甲賀/いやあ、実は僕にもよくわからない(笑)。
-何をおっしゃいます。
甲賀/本当だよ。海野さんは誤解している。僕がビジョンを持って、モノゴトを進めるタイプだと思っているでしょ。
-思ってますよ。
甲賀/それが違うんだよ、誤解。
-甲賀さんにはビジョンがないということですか?
甲賀/そう、ないね。
-ええっ。それは、最近のこと?
甲賀/いや、昔から。
-昔って、いつ頃からですか。
甲賀/20年ぐらい前からかなあ。
-ビジョンがないも何も、甲賀さんは何年もの間、他人のビジョンづくりが仕事だったじゃないですか。
甲賀/そのとおり、人にはそう言ってきた。「ビジョンこそが大切だ」「ビジョンを作りましょう」って。でもね、実はビジョンが何であるかをわかっていなかったんだよ。
-いつそれに気づいたんですか。
甲賀/それが、つい最近(笑)。
-ビジョンが何であるかをわかっていないまま、シーアイセンターをやってたんだ(笑)。
|自分が「どういう状態でありたいか」を考えてみたら
甲賀/最近わかったんだけど、ビジョンには、いくつかの状態があるわけでさ。
-はい。
甲賀/仕事では「ビジョンは何ですか」とクライアントに考えさせてきたんだけど、ある時に「甲賀さんのビジョンは何ですか」と聞かれてふと考えたのね。会社であれば「こんな事業を起こして、会社を大きくしたい」とかあるわけだけど、あらためて「甲賀雅章のビジョンは何だろう」と考えたときに、なにもなかった。そのことに最近気づいた。
-それで?
甲賀/俺はビジョンのない男なんだなぁ、と。で、ある時、ビジョンを少し整理して考えたことがあって。ビジョンを3つの構成要素に分解してみたのよ。
-3つの構成要素ですか。
甲賀/ひとつは「Doing」。何をするか。実は、僕はそれをずっとビジョンだと思っていたんだ。会社のビジョンは何ですか、という問いは「これから何をしたいのですか」という意味に捉えていた。
-新しいサービスを開発したいとか、ウェブ事業部を作ってネットワークを構築したいとかですね。
甲賀/そう。でも、そんな欲求は俺の中にはないんだ。デザインの仕事をずっとやっていくとか、プロデューサーでありつづけるとか、そういった「Doing」に対する欲求はなかったんだよ。ビジョンを長い間「Doing」として捉えていたので、俺はビジョンなき男だと思ってきたわけ。
-「Doing」ですか。二つ目は?
甲賀/「Having」。何を得るか、ということ。仕事は何でもいいから巨額の富を得たい、とか、名誉を得たい、というのもビジョンかもしれない。
-そうですね。
甲賀/でも、それも自分の中にはないんだよ。「Having」もない。自分の中には何もないのかとよくよく考えてみた時に、ひとつだけあった。
-三つ目の要素ですね。それはなんですか。
甲賀/「Being」。つまり、自分はどういう状態でありたいかということ。地位でもモノやカタチでもないんだよ。
-こころの状態ということですか。
甲賀/そう。「自分はこういう状態でありたい」というイメージは、自分の中にあったわけ。僕が望む「Being」は、自分のまわりの人がみんな楽しくしている状態なんだ。笑顔で楽しそうな人の輪の中に自分がいることができれば、それが幸せ。
-はぁ。フェイスブックの中で、いろいろな街でたくさんの人の笑顔に包まれている甲賀さんを見ると、すでに理想とする「Being」状態にありそうですね。
甲賀/ははは(笑)・・・たしかに、近づいているかもしれない。それで、最近は「俺もビジョンをもってるじゃん」って思ってる。
-そうですか、それは幸せですね。
甲賀/そう考えると、デザインをしていても、プロデュースでも、コンサルティングしていても、仕事の中身は何でもかまわない。自分が何をしていようと、まわりの人が笑顔であれば、それが自分のビジョンだからね。
-まるで、クラウンのような存在ですね。
甲賀/そう、常にクラウンのようにありたいね。
|余分なものを、いかに削ぎ落とすかということ
甲賀/ビジョンを実現しようとするには、壁になるもの、余分なもの、重荷になるものがいっぱいあるわけだ。それを削ぎ落とすことが必要。僕の場合は、会社を維持するために何かをするというのも重荷だし、したくない。でも、それらは簡単には整理できないんだよね。
-甲賀さんが60歳になった頃、社員の独立を促して会社をコンパクトにしましたよね。活動の軸足を組織から個人に移そうとしている、僕はそう見ていました。川根本町にCafe&Gallery「連」というコミュニティー・スペースを作ったり。いよいよ自分の夢の実現に向けて突き進んでいくんだなと。
甲賀/それが、実はそうでもない。簡単には整理できない。いまもシーアイセンターを背負っているし、状況は決して変わっていない。
-そうですか、コンパクトにはなったのに?
甲賀/経営規模を縮小したことで、稼がなくてはいけないお金は以前よりも少なくてすむようにはなったものの、社員がいて、会社を維持しなければならないという点では、以前と何ら変わらなかった。
海野/たしかに。
甲賀/自分では「これからは、こっちの方向に行こう」と思っても、許されないんだ。
-でも、気持ちの中ではもう“個人”ですよね。
甲賀/そうだね。完全に個人に軸足を移せるようになるには、もう少し時間がかかりそうだけど。
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