24.シーアイセンター代表/甲賀雅章氏(3)

2013年10月28日12:00
今月の物語の主人公は・・・
甲賀 雅章(こうが まさあき)さん

24.シーアイセンター代表/甲賀雅章氏(3)

 1951年静岡市生まれ。株式会社シーアイセンター代表取締役プロデューサー。インテリア、ディスプレイ、デザイン・編集会社を経て1975年株式会社トマト設立。1985年(株)シーアンドシー、1991年(株)シーアイセンター設立。 広義の意味でのデザイン、文化戦略を、21世紀型経営の最重要資源として位置づけ、 企業、組合、商店街、地方自治体等の活性化におけるコンサルティング活動を展開。CI戦略、ブランディング、コミュニケーションデザイン、新商品開発、新業態開発、空間プロデュース、イベントプロデュースと活動領域は広く、2009年地域・社会の問題をデザイン思考で解決すべく、ソーシャルデザイン研究所を設立。 2011年4月からは川根本町文化会館の事業パートナーとして企画運営に携わる。
  2011年6月静岡県榛原郡川根本町千頭、山間の里にCafe&Gallery「Ren」をオープン。
 1992年、大道芸ワールドカップIN静岡を立ち上げ、今日に至るまでプロデューサーを務める。2012年4月から大阪府江之子島文化芸術創造センター館長に就任。 2012年12月よりバンコクSiam Street Festのプロデューサー、 2013年4月、阿倍野を中心に開催される「大阪国際児童青少年アートフェスティバル」プロデューサーに就任。

◆ソーシャルデザイン研究所 http://sd-lab.org/
◆シーアイセンター http://www.ci-center.net/index.html

※インタビューの聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史さんです。
※この記事は、全3回のインタビューのうちの3回目です。 
≫1回目はこちら
≫2回目はこちら
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|街を面白くするには、「変わった大人」が必要だと思うんです。

-2011年、60歳になって川根本町にCafe&Gallery「Ren」(連)というコミュニティ・スペースを作られましたね。中山間地の問題を「+デザイン思考で解決する」というアプローチは変わりませんが、講義や指導といったコンサルタントとしてではなく、自ら「場」を作り、主体的に関わった点、別のいい方をすれば、リスクを背負ったことが、これまでとの大きな違いなのではないかと思います。何か、甲賀さんの心境に変化があったのですか。

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甲賀/実はその少し前、50代後半にふたつめの転機がありました。これからは、“変なオジサン”になろうとね。

-どういうことですか?

甲賀/ぼくは、変わった大人がいない街は面白くない、と思っているところがあって。でも、そんな大人が少なくなってしまった。それで、見た目は変なオジサンだけど、話をしてみればロジックがしっかりしていて、よく見ればおしゃれな大人、そんな“変なオジサン”に自らなろうと。若者のためにも、そんな大人が必要ですし。その頃から、髪の毛を立てたり、サルエルパンツを履きはじめたりしたわけ。

-それ以前の甲賀さんは、スタイリッシュなファッションでした。

甲賀/経営者としての意識が強かったからね。変なオジサンへの転身は、ぼくの中で脱経営者へと舵を切ったということでもあるんですよ。

-そうだったんですね。

甲賀/そんな“変なオジサン”を目指そうとしはじめた頃、たまたま、「Ren」を開いたあの場所に出会ったのね。出かけてみれば、空気はいいし、静かだし、隠居の場所としても悪くないなぁと(笑)。最初はそんなノリだった。カフェやギャラリーを計画していたわけではなく、すべてタイミングでしたね。

-それにしても、驚きました。

甲賀/「Ren」には、もうひとつ理由があって。それまではずっと商店街の課題解決に取り組んできたのだけど、60歳に近づいてきた頃から、中山間地の問題に関心を持ち始めていた。できれば行政の取り組みでないところで何かできないかと考えた時に、コミュニティ・スペースを持つことはそのひとつの起爆剤になるかもしれないと。

-「Ren」をきっかけに、活動の場を商店街から中山間地へシフトしようと考えていた。

甲賀/ビジネスというよりも、そこから何かが生まれる場になればいいなと。腰を据えて取り組むつもりで、「Ren」にはロフトも作って、週のうち2~3日は現地で活動する予定だった。それがね、同時期に大阪江之子島文化芸術創造センターの館長に就任することになって、計画が変わっちゃった(笑)。

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|大阪では、先入観なしの「変なオッサン」でいられるのがいいね。

-大阪江之子島文化芸術創造センターの館長に就任するとなったとき、甲賀さんはどんな気持ちだったんですか。

甲賀/正直にいえば、「エ~、俺が!」という気持ち。大阪に行きたいとは少しも思っていなかった。自分と大阪人は、絶対に水が合わないと思っていたし。でも、大阪の知り合いから「甲賀さんが来てくれたら、大阪が絶対に活性化するから。どうしても!」と請われて、結局引き受けることになったわけ。

-ご自身は、消極的だったのですね。

甲賀/そうなんだよ。それで、大阪に行ってみたら、自分と大阪は水が合うんだ(笑)。大阪人にも言われるの、「甲賀さんは、大阪人よりおもろいわ」「大阪人よりも大阪人みたいやわ」って。

-それは新たな発見ですね。

甲賀/60歳になって新しい文化に触れて、自分の回りにいろいろな人が集まってきてくれる。これは、すごくうれしいことですよ。忙しい時はひと月に3回も講演を頼まれることもあって。大阪商工会議所とか、21世紀経営研究所とかね。講演が終わると「おもろいわー」って喜んでくれる。

-60歳を過ぎて、ますます活躍の場が広がっている。

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甲賀/そうなんだよ。それからも、ぼくが大阪江之子島文化芸術創造センターの館長に就任したことを知った昔の知り合いから声がかかって、「大阪国際児童青少年アートフェスティバル」のプロデューサーを頼まれたり…。ここ1~2年は、大阪での仕事が増えている。 

-人と仕事が、ものすごい勢いでつながっていきますね。「Ren」で実現しようとした“人のつながり”を、ひとあし先に大阪で実現し始めている。

甲賀/60歳を境にそれまでの仕事を終息させて、山の中に隠遁しちゃおうかと考えたこともあったけど、現状は全然違う方向に向かっているね。50代の後半よりも、細胞が活性化している。それは大阪人や大阪の文化との出会いが大きかった。

-大阪の何がいいですか。

甲賀/大阪では、自分の肩書きではないところで認めてもらえているのが気持ちいい。静岡では「大道芸の甲賀さん」なんだけど、大阪ではおかしな格好の、まさに「変なオッサン」だし、「静岡の大道芸ってなんや」だからね。「こいつ何モノや」と思っている初対面の相手に、プレゼンして、話をしたりする中で「甲賀ってやつは、おもろい」と認めてくれる。そのことが、気持ちとしてすごくラクだし、自分の実力を試す意味でもおもしろい。

-自分の実力を試す武者修行みたいですね。同時に、自分の新しい可能性を発見して、ネットワークも広がっている。

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|世代を交えて、それぞれが持つ資産を使って、新しい発想を。

-一方で、58歳の時に「ソーシャルデザイン研究所」を設立されました。従来の「まちづくり」と「ソーシャルデザイン」とは何が違うのですか。

甲賀/大きな範疇では、同じだと思いますよ。違いがあるとすれば、課題設定とアプローチの違い。「まちづくり」というときは、街の景観や中心市街地活性化とか、課題設定そのものが大きかったし、行政の関わりが不可欠。一方の「ソーシャルデザイン」は、生活の中の身近な課題を、個人がひとりから参加できる方法で解決しようという動きですね。ひとりの変化でも、一人ひとりがつながって「みんな」になれば、社会に対して影響力も発揮できるよね、と。例えば、自分のPCとケータイだけはポータブルのソーラーパネルでまかなってます、とか。

-使い古された言葉ですが、まさに草の根活動的な取り組みなんですね。甲賀さんご自身はどんな役割を担うつもりですか。甲賀さんのまわりの方も、ほとんどが自分より若い世代になっているでしょう?

甲賀/これからの自分の役割は、人づくりだと思っています。地域・社会の問題を解決できる人材を育てる目的で、大阪では「江之子の学校」を、静岡では「明るい未来の学校」を始めました。どちらも参加できるのは、アンダー35。35歳以下の若者限定の学校です。講師陣のもっているノウハウやネットワークを若い人に伝える場であると同時に、講師陣は若い受講生から新鮮で、自分たちにはない発想を発見する場を目指しています。

-甲賀さんは、92年に「ヒューマンカレッジ」をスタートし、次に「地域しごとの学校」にも取り組まれています。人づくりは甲賀さんのライフワークとも言えます。これまでの学校と、今回違うのは?

甲賀/講師陣と受講生の世代が、はっきりと違う。受講生には、「君たちの世代が持っていないノウハウやネットワークを、講師陣は持っている。でも、講師陣にない発想やデジタルリテラシーを君たちは持っているよね。ここでは、お互いのいいものを持ち寄って、何ができるか可能性を探ってみよう」と話しています。

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|「大道芸ワールドカップin静岡」の、次なる展開とは。

-「大道芸ワールドカップin静岡」も今年で22回目ですね。

甲賀/パフォーミング・アーツを通じて、静岡市が創造性に富んだ街になってほしい、というのが「大道芸ワールドカップin静岡」の大きなミッション。実行委員の間では、それを“創造都市”と位置づけていて、「大道芸ワールドカップ」というイベントは、“創造都市”実現にむけたプロセスなんです。

-“創造都市”とは?

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甲賀/生活の質、市民の民度が高い街。文化・芸術に対して高い意識を持ち、変化に対して恐れない市民性を育てていきたい。そんな人が増えて、街が変わっていくのだと思っている。実際に、「大道芸ワールドカップ」を20回以上継続して開催してきたことで、静岡市の民度は高まってきていると思う。

-第1回目からプロデューサーとして関わってきて、実現できたことと、できなかったことは何ですか?

甲賀/表現ジャンルとエリアの拡大ができていない。表現ジャンルの点では、ストリートシアターというのはきっかけであって、本来は次の段階があるんです。でも、いまはストリートシアターの次がSPACになってしまっている。それは飛躍しすぎなんです。世界には大道芸とSPACの間に、もっと多種多様なパフォーマンスがある。それらをもっと紹介していきたいですね。

-たしかに大道芸とSPACは両極であって、その間にさまざまなパフォーマンスがあるのかもしれませんね。でも、お話を聞くまで、気づかなかったです。

甲賀/エリアの拡大ということでは、アートは回遊性を高めるメディアでもあるんです。「大道芸ワールドカップin静岡」の期間は、県外や市外からも大道芸を見るために多くの人がやってくるでしょ。その人たちにもっと静岡市のことを知ってもらいたい。たとえば、静岡市街地を一望できる谷津山の上をパフォーマンス会場の一つとすることで、素晴らしい景色も楽しんでもらえる。そのくらいの広がりを持たせたい。

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-静岡市内には、市民でさえ気づいていない魅力ある場所がまだまだあると。

甲賀/つまり、20年前とイベントの基本構造が変わっていないことが大きな課題なんです。それを変えられるのは、きっと新しい世代ですよ。まずは、代替わりすることが大道芸ワールドカップを次のステップに進めるための最初の一歩でしょうね。

-最後に「大道芸ワールドカップin静岡」の今年の見どころを教えていただけますか?

甲賀/14組のアーティストが登場するワールドカップ部門は、今年さらにパワーアップしています。それから、昨年、カフカの小説「変身」を表現したパフォーマンスで話題になったピープル・イン・バックパックは、今年はまったく違うパフォーマンスを魅せてくれます。注目です。静岡代表でもある劇団SPACによる「古事記!!エピソード1」では、静岡に縁の「草薙の剣」の物語を公開します。これは静岡人にこそ見ていただきたいですね。
「大道芸ワールドカップin静岡」も20年以上続けてきたことで、若手アーティストが活躍し始めてきています。どの会場においても、若手の台頭によるオフ部門とオン部門の凄まじい戦いを楽しんでいただけるはずです。今年の「大道芸ワールドカップin静岡」を、ぜひ期待していてください。

-わたしも今年の「大道芸ワールドカップin静岡」を楽しみにしています。それから、甲賀さんが大阪の次にどこに向かうのかも。益々のご活躍も期待しています。今日は、ありがとうございました。

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インタビューを終えて笑顔の、甲賀さん(左)と海野さん。



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Posted by eしずおかコラム at 2013年10月28日12:00 | 24甲賀雅章さん
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