42.株式会社玉川きこり社代表取締役/原田さやか氏(4)
2017年04月25日12:00
今月の物語の主人公は・・・
株式会社玉川きこり社代表取締役・原田さやか(はらだ さやか)さん
愛知県豊橋市生まれ。大学入学を機に静岡へ。仕事を通じて玉川のおばあちゃんと出会い、静岡市の山村〝玉川〟を知る。2008年に「安倍奥の会」を立ち上げ、安倍奥・玉川の魅力を伝えるとともに、2014年3月には玉川地区に移住し、株式会社玉川きこり社を設立。代表取締役就任。「きこりと子育て」を事業テーマに活躍中。
◆玉川きこり社(HP)
◆玉川きこり社 blog
※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史です。
※この記事は、全6回のインタビューのうちの4回目です。
≫第1回 それほど山の暮らしが合っていた
≫第2回 玉川のおばあちゃんのおもてなし
≫第3回 絵空ごとだった事業計画
≫第5回 玉川で何か始めたい!
≫第6回 地元の人たちと一緒に子育てしやすい玉川に
・・・・・・・・・・・・・・・
|第4回 目指せ、日本一みんなで子どもを育てる村。
- 海野
- 会社スタート時の状況は悪い方へ向かっていた?
- 原田
- 当初立てた事業計画では、役員できこりの繁田は林業担当で、わたしの仕事は地域づくり。林業を事業の柱にすることははっきり決めていたのですが、地域づくりについて何をやるかは漠然としていたんです。
- 海野
- はい。
- 原田
- そんなこともあって1年目は売り上げが作れず、葛藤が続いて…。気づけば、わたしと繁田は互いに別の方向を見るようになっていました。仕事も会社もうまくいかなくて、2人の間は険悪な空気でした。
- 海野
- 仕事がうまくいかないと、お互いを思いやる気持ちも持てなくなりますからね。
- 原田
- そんな時期に、外部の方がわたしたちの強みを気づかせてくれたんです。2年目の半年経った頃に「オクシズネット」という地元の製材業関係者が集まった団体が立ち上がりました。その団体を紹介する冊子の制作でわたしたちに声をかけてくれたんです。できあがった冊子が行政の方の目に留まり、その仕事がきっかけとなって、林業や地域を紹介するデザインの仕事へ広がっていきました。
- 海野
- 自分たちにできることで、地域に必要とされている役割がそこにあった。
- 原田
- そうなんです。外部の方に声をかけられて「自分たちは情報を発信することが得意だったよね」と気づきました(笑)。それからデザインの仕事が徐々に広がっていって、少しずつお金を稼ぐことができるようになりました。2年目に入って、ようやく自分たちに給与を出せるようになったんです(笑)。
- 海野
- それはよかった。「林業と子育てで玉川の地域づくりの支援をしよう」という思いで立ち上げた会社は、なかなか事業として成り立たなくて。収益面の支えになったのが、それまで自分たちがやってきた情報発信やデザイン制作の仕事だったんですね。起業や新規事業などは、計画通りにいかないですね。
- 原田
- はい。3年目に入ってデザイン部門がさらに広がり繁田もわたしも「そろそろ給与、満額もらってみようか」と思いきることができました。そしてその年の8月に、初めてスタッフを雇用できるまでになりました。
- 海野
- それは大きな前進ですね。
- 原田
- 新しいスタッフを迎えて、仕事が今までよりスムーズに進むようになり本当に助かっています。一方で、強い責任が生まれるのも事実で、今までは、お金がなければ繁田と2人で相談して「今月はガマンしようか」で済んでいましたが…。
- 海野
- もう、そうはいきませんね。
- 原田
- はい(笑)。
- 海野
- いま「玉川きこり社」が取り組んでいることは?
- 原田
- わたしたちの会社の事業全体のテーマは「きこりと子育て」。農山村を次世代に受け継いでいくためには、子どもの存在が不可欠だと思っています。そのためには、子どもの頃から山や木に触れてほしいんです。
- 海野
- はい。
- 原田
- 「きこりと子育て」を軸に、まずは林業をベースとした事業に取り組んでいます。きこりの仕事や木材のコーディネート、工務店さんと連携して柱と材を納める建築用木材の販売などです。ここの地域資源で稼ぐ力をつけていきたいんです。
- 海野
- 林業事業は順調ですか?
- 原田
- 少しずつ軌道にのってきました。2016年に、ウイスキー工場「ガイアフロー静岡蒸溜所」が玉川地区に完成しました。
- 海野
- ウイスキー工場ですか。
- 原田
- そこの代表の中村さんが、蒸留所や発酵桶に、玉川産材やオクシズ材を使いたいと言ってくれて、材料となる木材や工場で使う薪などを、わたしたちが手配しています。
- 海野
- そうですか。
- 原田
- この仕事は、山主さんや林業家の方々に貢献することができ、わたしたちにとっては収益面だけではなくノウハウを蓄積することもできて、とてもありがたかったです。
- 海野
- 大きな一歩になった。
- 原田
- それから「玉川マップ」など、林業や玉川地域の情報を発信するデザイン部門ですね。2020年の東京オリンピックに向けては、静岡県や静岡市としても地元産材をアピールしていこうという機運があります。林業や山村を伝え、身近に感じてもらうことにつながるデザイン部門でもわたしたちの強みを活かしていきたいです。
- 海野
- 地域からも必要とされている仕事ですしね。
- 原田
- そして、子育て事業では、玉川の木で作った「きこりのキッズスペース」や、「きこりパズル」に「きこりドミノ」のような木のおもちゃなどの商品開発と販売にも力を入れています。
- 海野
- おもしろいパズルですね。
- 原田
- イベント時に子どもたちが輪切りの木材で遊んでいるのを見て、そこからヒントを得たんです。今は試行錯誤の段階ですが、「きこりパズル」の遊びが広まっていけばいいな、と思っています。
- 海野
- きこりと子育てがつながりますね。
- 原田
- 今後は、山と街をつなぐプラットフォーム事業にも取り組んでいきたいと考えています。
- 海野
- 具体的に何か始めていますか?
- 原田
- 次世代を担う子どもたちの生きる力を育むことを目的とした「きこりじゅく」を月に1回開催しています。
- 原田
- 今は自分たちができる範囲での開催ですが、子どもたちがきこり文化と触れ合う経験を深める上で、とても大切なプログラムだと考えています。
- 海野
- はい。
- 原田
- 昨年、静岡県が募集したオリンピック文化プログラムに採択されたのをきっかけに、より幅広いファミリーにご参加いただけるような仕組みを構築中です。具体的には「マタニティ編」「未就学児編」「小学生編」と対象を分けて開催するようになりました。
- 海野
- すてきな体験教室ですね。
- 原田
- ちなみに、先のロンドンオリンピックでは、イギリス各地で約十数万件のアート文化プログラムが行われたそうです。それらを手本として、東京オリンピックでは、国を挙げて全国で20万件を目標に文化プログラムの実施が発表されています。
- 海野
- 国を挙げてすでに動き始めているんですね。
- 原田
- 文化プログラムの参加にあたって私たちが掲げたテーマは「目指せ、日本一みんなで子どもを育てる村」。これはわたしたちのミッションの実現と重なるので、「やるしかない」という思いで取り組んでいます。
- 海野
- 楽しみですね。
- 原田
- 2020年までは東京オリンピックに向けて日本全体が動いていくので、農山村もそのような機運をチャンスに捉えることが大切だと思います。都市部だけでなく山村にも相乗効果が生まれる仕組みを作って、2021年からは新しい仕組みに支えられた子育てしやすい村としてスタートが切れるといいなと思っています。