今月の物語の主人公は・・・
シンフォニエッタ静岡 芸術監督・指揮者・中原朋哉(なかはら ともや)さん
1973年愛知県小牧市生まれ、焼津市育ち。作曲を長谷川勉、伊藤康英、後藤洋の各氏に学んだ後、フランス・ディジョン音楽院指揮科にてジャン=セバスチャン・ベロー氏に師事。1993年からはフランスおよび日本においてパスカル・ヴェロ氏のアシスタントを務める。1996年フランス国立リヨン管弦楽団定期演奏会、グルノーブル音楽祭に同管弦楽団史上最年少の指揮者として23歳でデビュー。フランス、オーストリア・ザルツブルクを拠点に活躍後、2005年、国内外のトップアーティストを中心に構成されるプロの室内オーケストラ「シンフォニエッタ 静岡」を創設。芸術監督・指揮者を務める。モーツァルトとフランスの近・現代作品の紹介に力をいれる。また、芸術分野に関する文化政策研究にも力を入れており、2018年3月に修士論文『日本のオーケストラに関する公的支援制度の研究 -ハイブリッド型支援制度の可能性-』で静岡文化芸術大学大学院文化政策研究科を首席で修了。2018年4月からは京都橘大学大学院文化政策学研究科博士後期課程において研究を継続している。日本公共政策学会、音楽芸術マネジメント学会会員。
◆一般社団法人シンフォニエッタ静岡
※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史です。
※この記事は、全3回のインタビューのうちの1回目です。
≫第2回 お客さまの音楽の世界を広げ、新たな魅力の気づきのきっかけに
≫第3回 演奏会を通じて生活の中に豊かさを
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2005年1月の創設以来、静岡県を拠点に音楽活動を行っているプロの室内オーケストラ「シンフォニエッタ静岡」。中原朋哉さんは、少数精鋭の室内オーケストラを、芸術監督・指揮者として創設時から牽引しています。プロのオーケストラを立ち上げるということ、さらに、静岡という地方で運営し続けることとは、どういうことか。どちらも、強い意志があってのことではないかと想像できます。また「シンフォニエッタ静岡」は、子どものためのコンサートや、ワークショップなどの教育プログラム、音楽交流を通じた地域コミュニティ活動にも熱心に取り組んでいます。今回は中原朋哉さんに、オーケストラを立ち上げたきっかけや想い、静岡という地方を拠点に活動するということ、演奏会の楽しみ方などについてお話を聞きました。
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|第1回 歴史の中で埋れてしまった音楽を静岡県から発信
- 海野
- 今日は、中原さんがプロのオーケストラを創設した経緯や、クラシックの演奏会の楽しみ方などについてお聞きしたいと思います。
- 中原
- よろしくお願いします。
- 海野
- 静岡市にオーケストラはいくつあるのですか?
- 中原
- アマチュアまで含めるとたくさんありますが、プロのオーケストラは、「静岡交響楽団」、「浜松フィルハーモニー管弦楽団」、そして、うち(「シンフォニエッタ静岡」)の3つです。
- 海野
- 中原さんは、2005年に「シンフォニエッタ静岡」を立ち上げました。きっかけを教えていただけますか。
- 中原
- それまで活動していたヨーロッパから帰国したのが2005年。最初は指揮者として、国内のどこかのオーケストラで活動するつもりでいました。実際、2つのオーケストラから指揮者として声をかけていただいたのですが、どちらも、相性があいませんでした。
- 海野
- 相性ですか?
- 中原
- そうです。指揮者とオーケストラは、夫婦のような関係なんです。相性が大切。それは音楽的というよりは、性格のようなもの。性格が合わなければいい夫婦になれないように、オーケストラもいい演奏はできません。
- 海野
- なるほど。
- 中原
- それと、ヨーロッパ滞在中に、歴史の中で埋れてしまったクラシック音楽の作品を個人的に発掘していました。実は、クラシックの世界では、ちょっとした運命によって知られなくなった作品がたくさんあるんです。それらの作品は、探し出した後、誰かが演奏しなくては日の目を見ません。でも、演奏する人はなかなかいません。では、どうする?と考えた時、自分でやるしかないな、と思いました。で、どこで活動する? 静岡でいいんじゃない!と、ひらめいたわけです。
- 海野
- そうなんですね。「シンフォニエッタ静岡」で目指したことは?
- 中原
- ぼくが理想とする音楽は、全員が一所懸命に演奏するオーケストラなんです。実は、日本のオーケストラでは、年功序列や先輩後輩など、演奏者の人間関係が演奏に影響してしまうことがありがちなんです。つまり、自分より前の位置の人以上に頑張って演奏することが、はばかられる風土があります。
- 海野
- 忖度してしまうわけですね。
中原朋哉さん(左)と代表理事・当団長でオーボエ奏者の植田明美さん(右)
- 中原
- 「シンフォニエッタ静岡」では、そのようなオーケストラにならないようにするために、ギリギリまで演奏者の数を減らしました。そうすることで、全員が必死になって演奏します。
- 海野
- はい。
- 中原
- もうひとつ、弦楽器と管楽器のバランスを取るために、それぞれ同じ人数にしました。うちは、全員がソリストなんですよ。そして、ほかでは演奏されることのない作品を取り上げるなど、演奏する曲も試行錯誤しています。プログラムにも個性を出して、演奏を聴くだけで「シンフォニエッタ静岡だ!」とわかるオーケストラを目指しています。
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