48.華道家・辻雄貴空間研究所/辻雄貴氏（3）

2018年08月31日12:00

今月の物語の主人公は・・・
辻雄貴空間研究所代表・辻雄貴（つじゆうき）さん

48.華道家・辻雄貴空間研究所/辻雄貴氏（3）

　1983年静岡県富士市出身。工学院大学大学院工学研究科建築学修了。同大学在学中にいけばなと出会い、いけばな作家・竹中麗湖氏に師事。建築という土台の上に「いけばな」を展開することで、建築デザイン、舞台美術、プロダクトデザインなどの、既存の枠組みを超えた独自の空間芸術を演出している。芸能とものづくりの神の名を冠した「シャクジ能」では、移動舞台のデザイン・基本設計や舞台美術などを手がけるディレクターとしても活躍。2013年、フランスにて「世阿弥生誕650年観阿弥生誕680年記念フェール城能公演」の舞台美術を手掛ける。2015年「シズオカ×カンヌ×映画祭」のアーティスティックディレクターに就任。2016年、ニューヨーク・カーネギーホール主催公演では、いけばなを披露。カーネギー初の華道家公演となる。2017年、スペインフェリペ6世国王夫妻来日時に、天皇皇后両陛下ご臨席のもと、浮月楼「月光の間」にて献花・室礼をおこなう。辻雄貴空間研究所代表。

◆辻雄貴空間研究所ホームページ

※聞き手は、（株）しずおかオンライン代表／海野尚史です。
※この記事は、全4回のインタビューのうちの3回目です。
≫第1回竹中麗湖先生の「それはおもしろいから、やるといい！」
≫第2回声がかかることは、すべてチャンスに！
≫第4回いけばなと能楽を融合するパフォーミングアーツに挑戦

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｜第3回　20代のガムシャラな時代が財産に

海野: 2013年のフランス・フェール城能公演プロジェクト以降、ホテルのオブジェ制作や店舗の空間ディレクション、CMのアートワークなど、活躍の場が広がりましたね。

辻: 自分から営業したわけではないんですが、フランスでの能公演プロジェクトの後、いろいろな方面から声をかけていただけるようになりました。

海野: 当時はどんな働き方だったんですか。

辻: 富士市の自宅を拠点に、静岡市の中山間地の人たちと連携しながら素材を集め、集めた素材で何かを作る、そんなルーティンができていった頃です。

海野: 収入面は？

辻: 少しずつ、食べていけるようになりました。ただ、計画的にそうなっていったわけではなく、気づいた時に「なんか、俺、食えてるじゃん!?」みたいな…（笑）。

海野: どんな仕事で食べていたんですか？いけばなじゃないですよね。

辻: 違います。店舗の空間デザインだったり、CMだったり、オブジェ制作だったり…。声がかかるものは、何でも引き受けました。奇跡的に、ひとつの仕事が終わると、次の仕事の依頼があって…を繰り返して。綱渡りのように食いつないでいました。

海野: 次々と声がかかって、うれしいことですね。

辻: そんな中で、バング＆オルフセンジャパンの前社長、甲斐ラースさんと意気投合して、「バング＆オルフセン90周年イベント」のパフォーマンスや、90周年ムービーのディレクションなどの仕事をいただけたのは支えになりました。

海野: 少しずつ、自分のやりたいことと仕事が近づいてきたのでしょうか。

辻: そうですね。一つひとつは「小商い」のような仕事の積み重ねでしたけど。

海野: いま、20代を振り返ると、どんな時代でした？

辻: とにかく、20代はガムシャラでしたね。背伸びして、自分の能力や実力を超えた仕事をもらって、人一倍努力して我流でこなす、そんなやり方の繰り返しでした。

海野: はい。

辻: ビッグマウスじゃないと仕事が広がりませんでしたから。どんな仕事でも「できます！」って言って、後付けでなんとかしていたので、周りのパートナーたちからは「辻がまた言ってるよ！」と、心配されていました。

海野: 「あんなこと言って、大丈夫かよ」と。

辻: そうです。実際、パートナーたちには随分と迷惑をかけました。でも、結果としていいものを作ることで、みんなもついてきてくれました。プロセスがめちゃくちゃでも、いい展示やパフォーマンスができると認めてくれて。自分の仕事はビジネスではあるんですけど、アートでもあると実感できたのも20代の経験からでした。