15.電子書籍を考える/大石直哉氏(3)

2012年11月26日12:00
今月の物語の主人公は・・・
大 石 直 哉 さん

◆プロフィール
Webサービスやモバイルアプリケーションの企画、デザインなどを手がける株式会社ドッグラン代表取締役。AppleからiPadが発表されて以降は、電子書籍のデザインと電子書籍ソリューションの構築を主な業務として取り組んでいる。

※このインタビューは、全3回のうちの3回目です。 (1)を読む(2)を読む

15.電子書籍を考える/大石直哉氏(3)


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|必要な分だけを、速いスピードで提供できる

―出版社にとっての電子書籍のメリットは何でしょうか。

大石/そのひとつは、在庫リスクがないことだと思います。

―それは大きいですね。弊社(注釈・株式会社しずおかオンライン)でも、本を出版する時は、その本がどのくらい売れるかを予測して初版部数を決定し、収支計画を立てています。売れ行きを見ながら増刷数を判断することになるのですが、例えば初版6000部刷った本の販売が好調なので後から3000部を増刷した場合、もし最終的に7000部しか売れないとすれば、結局2000部が売れ残ってしまいます。事前に販売数を正確に予測することができればいいのですが、それはなかなか難しい。少なすぎれば在庫が足りなくなって欲しい人に本が届かず、増刷数が多すぎると在庫が膨らむというリスクが生じるんです。

大石/そうですね。電子書籍は情報が電子データですから、在庫というものが存在しません。不良在庫のリスクを抱えることなくいつでも必要な部数を供給できる。それから、取り寄せに時間がかからないこともメリットです。

―先日ノーベル賞の発表がありましたが、たとえば、発表の当日すぐに、電子書店のトップページにノーベル医学・生理学賞を受賞した京大の山中伸弥教授の本を並べてキャンペーンを実施することもできますし、何冊でも販売できますね。出版社にとっては、タイムリーな販促活動ができる上に、供給不足による機会損失を回避しやすい点も魅力だと思います。

大石/在庫リスクがないので、結果的にリアル書店よりも多くの本を電子書店の店頭で販売し続けることができます。ネットならではのロングテールだと思います。

―ソーシャル・リーディングも電子書籍ならではですね。

大石/SNSなどのサービスを使って読書体験を他者と共有することを、ソーシャル・リーディングと読んでいます。読者それぞれが印象に残ったページにTwitterでコメントを書き込んだり、電子書籍に引かれたマーカーの色の濃さで他者が関心を持った箇所をシェアしたり、例えばその本を読んだ有名人の引いたマーカー部分を確認することも可能です。

―それは新しい読書体験ですね。学校では、先生が生徒の引いたマーカー部分を授業中にリアルタイムで知ることもできる。電子書籍によって教育の現場も変わりそうです。

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大石/本は、時に傍線を引いたり書き込んだりそて考えをまとめるツールにもなります。ツールとしての本を考えると、読書環境とノートや辞書やブログ、Wikiなどがアプリの中で完結するようなツールが、これから求められる電子書籍の在り方ではないかと思いますね。

|「貸し借り」文化の方法が変化していく

―現在の電子書籍の課題はどんな点でしょうか。

大石/長期利用性とDRM(Digital Rights Management。デジタル著作権管理)の問題が解決されていません。紙の本は一度購入すれば家族みんなで読むことができますが、現在の電子書籍は簡単には貸し借りができません。私的なレベルの流動性がなくなったといえます。自分以外の人にも読んでもらいたいと思ったら、お金を払って同じように買わなくてはなりません。

―最近ではあまりしないのかもしれませんが、昔は友だち同士が別々の漫画本を買って回し読みすることも珍しくありませんでした。電子書籍端末ごと貸さないかぎり、家族間でも本の貸し借りできない、ということですね。

大石/Appleは、音楽コンテンツのDRMをなくしました。完全に長期利用性を実現するためのもではありませんが。アマゾンは電子書籍のレンタルなどを始めているようですが、いずれにしても、これまでの紙の書籍のような個人レベルのコンテンツ体験の貸し借りは、現時点では難しいのではないでしょうか。

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―そもそも、大石さんが電子書籍に関心をもったきっかけは何だったのですか。

大石/わたし自身は音楽を購入したり映画を見たりするとき、以前は信頼できる情報源として雑誌や新聞テレビなどのレガシーメディアに頼っていましたが、いつの頃からか、従来のメディアからではなくオンラインメディアや自分が信頼できる人物とのコミュニケーションから得ることが多くなりました。人に何かを伝える手段は変化するのだなと実感しています。そんなこともあって、コンテンツ体験を共有できる電子書籍というものに興味を持ちました。

|コンテンツを、もっと世界に届けたい

―これから実現してみたいことは?

大石/現在は、メディアの周辺領域がすごいスピードで変化している真っただ中だと感じています。書店で写真集を買うことはあまりないかもしれませんが、Instagram(インスタグラム)には膨大な写真がアップされ、それを多くの人が見ています。CDは買われなくなったかもしれませんが、Youtubeには世界中で何十万、何百万ページビュー(再生回数)を数える音楽や動画があります。音楽などのコンテンツが聞かれなくなったわけではなく、届ける方法やコンテンツの入れ物が変化している時代なのだと思います。本も、これまでの本のパッケージのままで流通できる時代から新しいパッケージに移行している真っ最中なのではないでしょうか。
 本というメディアは、物語や体験などのテキストとイメージが編集された情報です。Instagramのように、これらのコンテンツがもともと内包していた情報を、アプリケーションやクラウドと融合した形で世界中に届ける方法を考え生み出したいと思っています。

―わたしも電子書籍を数冊購入したのですが、実は、まだ一冊も最後まで読み切れていません。最後にお聞きしたいのですが、大石さんはすでに300冊以上の漫画の電子書籍を購入しているということですが、漫画以外の書籍も電子書籍で読んでいるのですか?

大石/そういえば、漫画以外は電子書籍では読まないですね(苦笑)。いまでも紙の本に書き込みしながら読んでいます。

―そのあたりにも電子書籍の大きな課題がありそうですね。今日はありがとうございました。

大石/こちらこそ、ありがとうございました。

(4人目 大石直哉さん 了)
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Posted by eしずおかコラム at 2012年11月26日12:00 | 15.大石直哉さん
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