今月の物語の主人公は・・・
常葉大学 経営学部教授・大久保あかね(おおくぼあかね)さん
1963年名古屋生まれ。2006年より富士常葉大学(現:常葉大学)に在職。
◆常葉大学
※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史さんです。
※この記事は、全3回のインタビューのうちの2回目です。
≫大久保さんのプロフィールと1回目のインタビューはこちら
≫インタビュー3回目はこちら
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|地方の旅館が極めて重要な役割を持っている
大久保/富士山麓に泊まりたいという人は、従来通り河口湖周辺での宿泊で良いと思います。でも、せっかく日本に来たからには富士山だけでなく、温泉も新鮮な海の幸も楽しみたいという方には、伊豆半島や浜名湖、駿河湾など多彩な魅力がある静岡県側のほうが観光資源は充実しています。
-はい。
大久保/政府は外国人観光客数を2020年に2,000万人にすることを目標にしています。つまり、昨年度の実績よりさらに1,000万人を呼び込むということです。ところが、東京や大阪のホテルの稼働率は、すでに80~90%を超えています。その1,000万人はどこに泊まるのか、という問題があります。
-そうですね。
大久保/この問題解決に、地方の旅館は極めて重要な役割を持っていると思います。外国人観光客には都市部ではホテル、地方では旅館を利用してもらう。そうすると外国人観光客は、日本の魅力を両面から体験できます。
-旅館のおもてなしは、外国人観光客にも好評のようですし。
大久保/これから莫大な投資をして一から新しいホテルや観光施設を作らなくても、既存の観光資源や宿泊施設を活かせられれば、海外や全国の観光客へ魅力的な情報発信ができるはずです。
-投資も小さくて済みますね。
大久保/観光目的に限定すると、訪日外国人客の平均滞在日数は6.2日ですが、フランス人観光客は平均18.0日、オーストラリア人観光客は平均14.3日滞在しています。しかし残念ですが、伊豆半島へは訪れることがないようです。
-そうなんですか。
大久保/このような観光客にうまく魅力を伝えられたら、東京~京都間を移動する際、熱海や三島へ立ち寄ってくれるかもしれません。富士山と伊豆半島を一緒に楽しんでもらえれば日本の印象も深くなり、喜ばれます。でもこの一年は、外国人観光客をターゲットとしたそのような新しい取り組みが間に合っていなかったように思います。
-それは残念です。
|地元の貴重な遺産を次の世代につないでいく
-注目している取り組みもあるのではないですか?
大久保/もちろんあります。世界遺産登録をきっかけとした取り組みでわたしが注目しているのは、「修景」ですね。「修景」というのは、自然景観を破壊しないように整備することをいうのですが、最近、白糸の滝に行きましたか?
-すみません、最後に行ったのは記憶にないほど昔です。
大久保/高いフェンスの脇の階段を降りて、滝壺の間近にはお土産屋さんがあるイメージですか?
-はい。
大久保/現在の白糸の滝は、本来の滝の姿に戻っています。滝壺の両側にあった土産店は滝の上の駐車場近くに移転しました。崩落防止フェンスなどの人工物も撤去して、滝壺は、そのむかしに富士講のひとびとが修行した当時の景観に限りなく近くなりました。
-そうでしたか。知りませんでした。
大久保/午前中に白糸の滝を訪ねると、きれいに虹がかかる素晴らしい景観が楽しめますよ。本当にすばらしく生まれ変わりました。
-素敵ですね。
大久保/世界文化遺産の登録をきっかけに、白糸の滝以外にも構成資産のいくつかを、昔の姿に復元する動きがでています。
-はい。
大久保/さきほど「迎え入れる側の視点」でというお話でしたが、世界遺産は決して観光のためだけのものではなく、地元の貴重な遺産を次の世代につないでいく、という視点が大切です。それが、本来の意味での世界遺産の活動目的のはず。富士山は世界文化遺産ですからね(笑)。
-観光というと経済効果ばかりがクローズアップされがちですが、文化的・社会的意義をしっかりと考えることが大事なんですね。それが、郷土愛をはぐくみ、長い目で見れば経済的にもプラスになる。
大久保/土産店を移転し、白糸の滝の滝壺を本来の姿に戻すと決めて、実現した富士宮市の決断は、大英断だったと思います。
-ええ。
大久保/具体的な数字はまだわかりませんが、景観としての滝壺と、土産物などの物販エリアを明確にわけたことで、白糸の滝の価値は今後さらに高まると思います。長い目で見れば経済効果もプラスになって、共存するための方策としても効果的だと思います。
-この一年を振り返るという時に、経済面と文化面の両方から振り返らなければならないというわけですね。
|ここに来れば富士山と一緒の景色が楽しめる
-アイデアとしておもしろい取り組みは生まれていますか。
大久保/富士市の「工場夜景倶楽部」というグループの活動にも注目しています。このグループは、ライトアップした市内の工場を、いろいろな場所から撮影する集まりで、富士市商工会議所青年部の有志のカメラマンからスタートして、どんどん活動の幅が拡大しています。
-おもしろそうですね。
大久保/数年前に「工場萌え」という言葉ができましたが、それを一般の人も参加できるツアーにしてみたらどうか、ということで、今年は通年でモニターツアーを実施していくそうです。
-なるほど。
大久保/これからきちんと広報していけば、「工場萌え」のみなさんに限らず、多くの人に注目される可能性はあるんじゃないかと期待しています。
-工場萌えと言えば、川崎市が有名ですね。
大久保/そうですね。でも富士市の工場夜景が、川崎市にも、ほかのどこにも負けないのは、工場と富士山が一緒に撮影できるというところ。これは、もう反則技に近いですね(笑)。
-たしかに、ここに来ないと絶対に撮影できない。
大久保/工場はほかにも作れますが、富士山は作れませんから(笑)。
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