16.映画監督/山本起也氏(3)

2012年12月19日12:00
今月の物語の主人公は・・・
 映画監督 ・ 山本起也  さん

16.映画監督/山本起也氏(3)


◆プロフィール 山本起也(やまもと たつや)さん
 静岡市出身。広告映像の演出を経てドキュメンタリー映画制作を開始。無名の4回戦ボクサーを6年にわたり追った処女作『ジム』(03)で劇場デビュー。日本映画監督協会70周年記念映画『映画監督って何だ!』(06/監督・伊藤俊也)を高橋伴明、林海象と共同プロデュース。90歳になる祖母の「長年住んだ家の取り壊し」を題材とした監督作品『javascript:preview('http://interview.eshizuoka.jp/preview.php');ツヒノスミカ』(06)でスペインの映画祭「PUNTO DE VISTA」ジャン・ヴィゴ賞を受賞。最新作は『カミハテ商店』(12)。
◆『カミハテ商店』 公式サイト   2013年1月15日より静岡シネ・ギャラリー(HP)で上映

16.映画監督/山本起也氏(3)
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|映画は「人間」を描写しなければならない

―『カミハテ商店』は、学生さんと一緒に作ったんですよね。若い方の反応はいかがですか?

山本/まず、今の若い方が映画館に来ないという悲劇的な状況があります。映画館ではなく、部屋でネットなんでしょうかね。でも、実際に若い世代にこの映画を見せると、非常に柔軟に受け入れてくれるようです。そもそもこの映画のストーリーを書いたのが22才の二人の学生ですし。初老の女性が主人公だからといって、決して年齢層の高い方向けに作った映画ではないんです。原案を書いたふたりが言っていましたが、今の大学生はとても不安定なんです。卒業したら、社会にでるしかありません。でも、今は就職が難しい時代ですし、信頼できるものがなかなか見つからない。

―それでも、否応なく世の中に押し出されてしまう。

山本/そんな不安を抱えている彼らには、何か美しくて吸い込まれるような場所があったら吸い込まれてしまいたい、という気分がどこかに少しはあるんじゃないですか。一方で、そこに行くことは怖いし、恐ろしい。だから、誰かとつながっていたい、何かを信じたいという気持ちがあるのでしょう。それらの揺れ動く両方の気持ちを、想像以上に多くの若い方が持っているんではないでしょうか。

―監督は、「人はひとりじゃない」とか「みんなつながっている」といった安直なメッセージ映画が多い中で、「人間は一人に決まっている。でも、ひとりぼっちでも、自分の二本足でしっかり立っている人間どうしが繋がり合う瞬間を描きたかった」と語っていますね。

山本/映画ですから、人と人とのつながりや希望を示す責任が作り手にはあると思ってはいます。でも、あんまり簡単に“つながり”だとか“絆”だとか言われても、「そんなのウソだろ」と思う。そういうドラマは作りたくなかった。ごつごつした、ある意味いびつな人間同士が、どうすればつながりあえるのか、そこを丁寧に描くところに感動が生まれるんじゃないでしょうか。

―人間は、そもそも不器用なものですよね。

山本/日常では、誰もが苦労しながらどこかで他人とつながりたいと思っているわけです。映画でも、そんな人間のいびつさときちんと向き合わなければいけない。

―監督には、商業映画ではできないことを作品にしていきたい、そんな思いもありますか?

山本/いえ、商業映画でこそ、もっと人間をきちんと描くべきなんです。少なくとも僕らが若かった頃は、商業映画でも人間の描写をおろそかにはしていなかったと思います。もっときちんと描いていました。

―それは見る側が変わってきたのですか?

山本/映画作りのプロも、見る側のプロも、そのどちらもが減っていることが一因じゃないですか。千数百円をいただいて映画館に来てもらうわけですから、これでいいのかと、プロとして血へどを吐くくらい苦しみながら表現するべきだと思いますし、それをちゃんと観とどけていただきたいと思っています。

16.映画監督/山本起也氏(3)
16.映画監督/山本起也氏(3)
招待作品として上映されたカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(チェコ)にて。
(写真上)左から監督山本起也さん、奥田少年役の深谷健人さん、千代役の高橋よう子さん。
(写真下)観客でいっぱいの劇場での一コマ。


|『カミハテ商店』は、西部劇!?

―映画監督を目指したのは、いつ頃からですか?

山本/中学生の時ですね。壁新聞の映画コーナーの担当になりました。それで映画の記事をどう書けばいいのか、映画にめちゃめちゃ詳しい叔父に聞きにいきました。そしたら、「『キネマ旬報』を読め」と。それがきっかけです。
それから映画雑誌を読むようになり、背伸びして、知ったかぶりして話したり書いたり映画を観たりしているうちに、二時間ほどの中で日常の何倍もの人生を体験させてくれるこの「映画」作りという仕事はカッコいいなと。そう思って映画の道を意識し始めました。

―そのころはどんな映画が好きだったのですか?

山本/いや、実は案外単純で、最初見て感動したのは『ロッキー2』です。それから毎日生卵を飲んで、片手で腕立て伏せをして、夜中は毎日ロードワークにでる、みたいな。アホでした。でもそのうちに通っぽく見せたくなって、アートやアンダーグラウンドな世界に興味を持ち始めました。

―そこからだんだん変化してきたのですね。

山本/いえいえ、『カミハテ商店』だってほんとは西部劇なんですよ。でも、僕が西部劇を撮るとこうなってしまう。困ったものです。楽しめる劇映画を作ろう、と大真面目に思っていたんですけど、なぜか、出来上がるとお客様にガマンを強いる映画になっちゃうんです(笑)。

―それは、監督の中にある何かがそうさせるのですね。

山本/マゾなんでしょうかね。ガマンが好き、というか、あまり過剰なものは受け付けない体質が映画作りにでてしまう。

|これまでの自分を壊すような映画を撮りたい

―『ロッキー2』などのエンタテイメント性の強い作品を通じて映画に興味を持たれたということでしたが、ドキュメンタリーの世界に入ったのはなぜでしょう?

山本/いくつかの理由が重なっていますね。一番大きな理由は、大学の頃シナリオ学校に通い、何もないところから自分でストーリーを生み出す、ということの難しさに自信をなくしたことが大きいです。一方、そこに存在する物をどのような視点で切り取るか、というやり方については、自分でも多少は勝負になるかもしれないと思い、ドキュメンタリーに近づいたのだと思います。
『カミハテ商店』はシナリオ学校で挫折して以来の25年ぶりの脚本執筆であり、一度はあきらめたドラマ作りに再び挑戦するということだったんです。自分としては「負けたら後がない」、46才にしての挑戦でした。

―それでは、これから撮ってみたい映画は?

山本/我慢を強いる映画ではなく、例えば最初から最後まで主人公が全力疾走しているような映画、寝る間も与えないような映画を撮らなければいけないですね。

―でも、そういう映画を撮ろうとしても、途中から我慢を強いてしまうんですね。

山本/まずいなそれは。でもそれまでの自分の世界なんてものは未練なくぶっ壊して、自分をも裏切るような映画を撮りたいです。

16.映画監督/山本起也氏(3)

―今回は『ツヒノスミカ』に続いての地元静岡での上映です。最後に、静岡の映画ファンにメッセージをお願いします。

山本/『ツヒノスミカ』に続き、6年ぶりに新しい映画『カミハテ商店』を静岡の皆様にお届けできる事を本当に嬉しく思います。公開初日の2013年1月5日には音楽の谷川賢作さんが、6日には出演のあがた森魚さんなどさまざまなゲストが静岡にやって来ます。どうぞ劇場に足を運んで下さいますようお願いいたします。

―今日は、ありがとうございました。静岡での上映を楽しみにしています。

(第5回 映画監督・山本起也さん 了)
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Posted by eしずおかコラム at 2012年12月19日12:00 | 16.山本起也さん
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