25.NPOグリーンズ理事/小野裕之氏(3)

2013年11月25日12:00
今月の物語の主人公は・・・
小野 裕之(おのひろゆき)さん

25.NPOグリーンズ理事/小野裕之氏(3)


小野裕之 プロフィール
おのひろゆき。greenz.jp 副編集長、NPO法人グリーンズ理事。84年、岡山県生まれ。中央大学総合政策学部在学中に出会った“Sustainable Living”の考え方と、それを教えてくれた恩師に感銘を受ける。卒業後、ベンチャー企業にて新規事業の開発や大手企業のWebプロモーションの企画制作を行い、09年より、あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイデア厳選マガジン「greenz.jp」に参加。11年、副編集長に。12年にはgreenz.jpのNPO法人化にともない理事就任。編集・企画のほか、事業開発やパートナー企業とのコラボレーション業務など、ビジネス面を担当。

※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史さんです。
※この記事は、全3回のインタビューのうちの3回目です。 
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|グリーンズの理念に共感してくれるクライアントさんを大切に。

-『ほしい未来はつくろう!』の中に、小野さんの役割は「グリーンズ」の事業課担当とあります。「魂を売り渡さない範囲で・・・」(笑)と、釘も刺されていますが、「グリーンズ」はどのように収益を上げているのですか。

小野/基本的にメディアというのは、企業と一緒に新たな消費者を創り出すことで利益を上げているわけです。ウェブマガジン「greenz.jp」の場合は、企業や行政からの広告収入で運営しています。有料ページを作って、読者に課金しているわけではありません。

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-記事は、誰でも無料で読むことができるわけですね。

小野/有料ページにしてしまうと、記事をみんなに読んでほしいのか、ほしくないのか、中途半端になってしまいます。ぼくたちは、できるだけ多くの人に「greenz.jp」で紹介する記事を読んでもらいたい。ですから、そこはオープンにしていこうと決めています。広告についていえば、なんでも受け入れているわけではありません。たとえば、「エコ商品をPRしたい」と企業から問い合せがあった場合でも、もしかしたら本当はエコとはいえない商品かもしれない可能性もあるわけで。売上的にはありがたいけど、「greenz.jp」としてその広告を受けるかどうか毎回悩みます。

-魂を売り渡してしまうことにならないか・・・と。

小野/そうですね(笑)。そこは葛藤です。売上がなければ「グリーンズ」は続かないわけですから。一時期、「グリーンズ」の価値とは関係のない受託仕事の収益で「グリーンズ」の聖域を守っていたこともあったのですが、一度関わった受託仕事は、クライアントから「次もお願いします」といわれることも多く、簡単には切れません。そんな時は、つき合い始めた時のモヤモヤは後になっても消えない・・・みたいな気持ちになりました。

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-わかりやすい表現ですね(笑)

小野/人は「お金に色はない」といいますが、ぼくは「お金には色がついている」と考えています。いまは、「グリーンズ」の価値を活かした商品を開発して、できるだけ理想的な稼ぎ方を目指しています。「グリーンズ」の理念に共感してくれるクライアントさんに、納得して広告を出稿していただいたり、イベントを開催したりして、そのお金で「グリーンズ」を運営していきたいんです。

-グリーンズの価値を評価してくれる仕事であれば、受けましょう、と。

小野/いえいえ、「ぜひ、やらせてください」と言ってます(笑)。実際は、結構な数の案件をお断りしています。おいしい話に、ホイホイとしっぽ振ってついていってはダメ。少し気を許すと、そちらにズルズルと流されてしまいそうで。

-とり返しがつかなくなってしまう。熱心な読者ほど、そんな気配を敏感に察するでしょうね。

小野/最近は、企業の担当者からは、「グリーンズさんは敷居が高いですよね」といわれることもあります。「ウチの会社でこんなプロジェクトを始めたんですけど、グリーンズさんには怒られるかもしれない」みたいな会話も増えていて。これは、ぼくらのスタンスがクライアントさんに伝わっているということでもあって、いいことだと理解しています。

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-自分たちの考えていることを実現するために、そのポジションがいいということですね。

小野/そのかわり、「グリーンズ」に賭けてくれるクライアントを探して、たくさん営業します。問い合せだけでビジネスができるといい、みたいな話もありますが、本当に新しいことをやろうとしたら、それでは実現できません。新しいこととは、いまはない価値をクライアントに理解してもらうことですから、布教活動としての営業活動が絶対に必要です。ですから、待ちの営業ではなく、ちょっとしたことでもつながりを作って、こちらからどんどん営業して、プレゼンさせてくださいと出かけていきます。

-リトルトーキョーなどの活動からは、お金に変わる新しい価値交換の手段を探しているようにみえます。

小野/お金はあくまで価値交換の手段のひとつ、万能だとは思っていません。みんなお金に期待しすぎている。成績が良ければ給料を上げましょう、とか。でも、いくら給料を高くしても、辞めていく社員は辞めていきます。東北の復興支援をしている仲間たちが、おもしろいことを言ってました。炊き出しや、物資の配布だとか、いろいろな作業をしてくれる人を集めるときに、「時給1000円の仕事です」と募集すると、時給1000円を欲しい人が集まると。でも、「プロボノです」(プロボノとは、各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動)と募集すると、上場会社の役員の方が手伝いたい、と声を上げてくれることがあると。これは一例ですが、モチベーションを高める手段はお金以外にもいろいろあると思っています。

|仕事を創るのは、神聖なことではない。自然で素朴なことだと思います。

-年間700本ほどの記事を配信していて、全国のソーシャルデザイナーたちとのネットワークも持っています。広くそれらを見渡してみて、この分野には多くのソーシャルデザイナーがいるけど、このあたりは空白地帯だな、と思う分野はありますか。

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小野/手つかずの分野はあると思いますが、それを探して自分のやることを決めるのは本末転倒だと思います。その上でお話しすると、まちづくりをやりたいという方は増えています。学生にも多い。一方で、少ないのは、世界を意識したプロジェクトです。ぼくの友達に、ネパールの児童買春に関わっていた人たちに基礎化粧品を作ってもらって日本で販売するプロジェクトを立ち上げた女の子がいます。でも、同世代でそのような活動をしている人は彼女ぐらいしかいません。上の世代には「マザーハウス」などの成功事例もありますが、それを次に続く人がみあたりません。「セカシュウ」みたいなかけ声をあげて「世界に出ていこうよ」といっても行動を興す人は少ない。みんな日本が好きじゃん、と思います。海外の人と日常的にやり取りをしているぼくらを「すごいね」という人がいるけど、海外の人からは「そんなことをいうのは日本人だけだよ」といわれます。

-言葉の問題ですか。

小野/それよりも原体験の少なさだと思います。日本では、小さな時に海外の人と交流する場が身近にないですよね。

-ソーシャルデザイナーたちが抱えている課題はありますか。

小野/自分の活動を自分の仕事にしてしまおう、という意識が圧倒的に少ないです。ぼくの年齢(29歳)で「起業してます」というと、「すごいですね」とよく言われます。「起業」が神聖化されすぎている。日本でも明治の頃、20代、30代の若者が始めた事業が、後に大きな企業に育っている例はいくらでもあります。当時は、みんな起業家だったんじゃないですか。

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-よくある質問は?

小野/自分の活動の「値段はどうつければいいですか」とよく聞かれます。でも、それは市場が決めるもの。アダム・スミスの言うところの「神の見えざる手」です。

-落ちつくところに落ちつくと。

小野/そうです。自分でガレージセールをやってみればわかります。高すぎれば売れないし、安すぎれば売れてもお金は残らない。それから、1億2千万人の中で一番でないと起業できないみたいなイメージがありますが、ぼくは100人の中での一番があれば、それを得意なこととして仕事にすればいいと思っています。仕事を創り出すということは、人間の自然な営みとしてもっと素朴でいいはず。全国のソーシャルデザイナーたちが、自分の活動で生活できるようになってほしいんです。

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|足りないものは寝かせておく。やりたいことは、やりはじめれば動き出す。ほしい未来をつくり、やり続けていきます。

-「グリーンズ」の欲しい未来、について聞かせていただけますか。

小野/ぼくたちは、「3年後にはこうなっていたい」というような計画はありません。事業について何かを決める時にも、合議制のようなカタチでは決定しません。まとままる意見はまとまるけど、まとまらないことは結論を急がず、そのまま寝かせておきます。人間は基本的に一人なんだ、というのが共通認識としてあって。それをやりたい人が手を上げてやりはじめれば、それが動き出す。そんな繰り返しがグリーンズの未来になっていくのだと考えています。

-何をやって、何をやらないか、という判断はどうしているのですか。

小野/やりたいことで実現できていないことには、いろいろな理由があります。「やりたい」という気持ちを本人が信じきれていないのかもしれないし、プロセスが見えていないのかもしれない。はじめてのことを実現するには仲間が必要になりますが、仲間を巻き込めていないからかもしれない。理由はいろいろです。でも、何かが足りないのであれば、寝かしておこう、というスタンスです。無理して相手にあわせすぎると、共倒れする危険もあります。実際に、3人の経営者の波長が120%合うことは1年に1回あるかないか。でもそれって普通でしょう? どうしてもやりたいのなら、その本人がプロセスを考えて、一人からはじめればいいんです。

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-最後に、小野さんご自身の“ほしい未来”を教えていただけますか。

小野/ぼくは、2011年の6月に「green school」というスクール事業を始めました。「“greenz.jp”で紹介されているアイデアってすごいだろ」っていい過ぎている気がしていて。そのような活動は「自分にはとてもできない」と思っている読者が多いのかなと。「グリーンズ」は、ソーシャルデザインへの関心を引き出すために活動しているのに、その気持ちを実現に結びつけるアプローチが設計されていない、と気づいたんです。数人であれば相談にのることもできますが、全員にはできません。それで、読者を集めてアイデアをカタチにする方法を教えるスクールを始めました。2年間で約120名ほどの方が卒業しています。

-どんな授業があるのですか。

小野/プロジェクトの作り方とか、未来の描き方を教えてあげたり、生活の糧に変えるお金の作り方講座などです。3ヶ月に1回ほど、卒業生が集まって同窓会を開催していて、この会に参加することが、いまはとても楽しみです。ちょっと、ゼミの教授みたいでしょう(笑)。

-はい。

小野/「グリーンズ、すごい」と思って集まってきた読者が、「green school」を卒業して、今では彼らがまわりから「すごい」といわれる存在になっています。そのプロセスに立ち会えることが、すごくうれしいし、やりがいを感じています。スクール事業を通じて新しいシーシャルデザイナーたちを育てていくことが、いまのぼくの「ほしい未来」。それが、ぼくが今一番やりたいことで、いちばんしっくりきていて、これからもやり続けていきたいことです。

-卒業生たちが、それぞれの“ほしい未来”をつくっていくプロセスを一緒に共有できるのは、とても素敵なことですね。これからの小野さんの活躍を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

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Posted by eしずおかコラム at 2013年11月25日12:00 | 25.小野裕之さん
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