今月の物語の主人公は・・・
Conche代表・田中克典 (たなか かつのり)さん
1985年、三重県松阪市生まれ、愛知県稲沢市育ち。豊田工業高等専門学校機械工学科を卒業後、販売職や営業職を経験。NPOやソーシャルビジネスなどにも関わる。さまざまな職業経験を経て、2015年に無添加チョコレート専門店「Conche(コンチェ)」(静岡市駿河区高松)をオープン。
◆Conche
Conche(コンチェ)
住所:静岡市駿河区高松1-26-15 今井ビル1F西号
電話:054-374-8551
営業時間:13:00~17:00、土・日曜、祝日は11:00~18:00
休日:月・火曜
※聞き手は、(株)しずおかオンライン代表/海野尚史です。
※この記事は、全5回のインタビューのうちの1回目です。
≫第2回 「ビーン・トゥ・バー」は発展途上、ふつうの人がおいしいと思えるチョコレートを
≫第3回 自宅のキッチンで始めたチョコレート作り
≫第4回 素材にこだわり、余計なものを足さない
≫第5回 チョコレート作りを通して人の役に立ちたい
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コーヒーやビールなどで起こった、原材料と手作りにこだわった製品作りの波が、チョコレートの世界にも広がっています。原料であるカカオ豆(=ビーン)の仕入れから、焙煎、板チョコレート(=バー)の製造まで一貫して行う「ビーン・トゥ・バー」と呼ばれる動きが、最近、チョコレート好きの間で注目されています。静岡県内では、最初で唯一(2018年4月現在)の「ビーン・トゥ・バー」による無添加チョコレートのお店「Conche(コンチェ)」。静岡市駿河区高松に2015年オープン、今年で創業3年目になるConcheを運営する田中克典さんに、無添加チョコレートのお店を開いたきっかけや、「ビーン・トゥ・バー」チョコレートの魅力について伺いました。
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|第1回 コーヒーと同じ波が、チョコレートにもやってくる!
海野 こんにちは。今日はよろしくお願いします。
田中 よろしくお願いします。
海野 田中さんは、お隣の愛知県出身だそうですね。
田中 はい。静岡に来るまでは、名古屋の西、尾張に暮らしていました。三重県と岐阜県に挟まれたあたりです。静岡市には2015年に引っ越してきましたので、もうすぐ3年になります。
海野 静岡市の暮らしは慣れました?
田中 そうですね。静岡は、年間通してとても過ごしやすいです。愛知県は、夏は暑くて冬は寒いので。それから、静岡は食べ物がおいしいですね。魚も野菜も、産地が近くて新鮮だと思います。
海野 そういっていただけると、うれしいですね。静岡の人は、それが当たり前と思いがちですが。ところで、田中さんは「Conche」を始める前は、違う仕事をされていたと聞きました。
田中 はい。通信機器の会社で営業をしていました。
海野 いまの仕事と全然違いますね。独立起業は大きな転機だったと思いますが、そもそも手作りチョコレートを仕事にしようと思われたのはいつごろですか。きっかけを教えていただけますか?
田中 最初に「ビーン・トゥ・バー(Bean to Bar)」のチョコレートを知ったのは、2014年の夏ごろです。「ビーン・トゥ・バー」というのは、チョコレートの原料であるカカオ豆(ビーン)の仕入れから焙煎、板チョコ(バー)の成形まで、製造工程を一貫して行うチョコレート作りのスタイルのことで、「クラフト・チョコレート」とも呼ばれています。
海野 はい。
田中 偶然手にした雑誌で、当時注目されはじめていた海外のビーン・トゥ・バーの記事を読んで、とても興味が湧いたんです。その場で、雑誌に紹介されているお店のサイトにスマホでアクセスして。調べているうちに「自分でも作ってみたい」という気持ちになったのがきっかけです。
海野 出会いは、偶然手にした雑誌の記事だったんですね。ビーン・トゥ・バーのチョコレートの、どこに魅かれたんですか?
田中 市販のチョコレートと、中身が全然違うところです。ビーン・トゥ・バーのチョコレートは、カカオ豆と砂糖だけで作られています。それまでのぼくにとってのあたりまえのチョコレートには、カカオ豆や砂糖のほかに、植物油脂や乳化剤、香料など、いろんなものが入っているんです。それらを使わないチョコレートがあることに、まず驚きました。それから、カカオ豆の仕入れから焙煎、成形など、製造のすべての工程をひとりで行うチョコレート作りのスタイルが新鮮でした。
海野 ええ。
田中 記事を読んでネットで調べているうちに、文字と写真だけで知った「ビーン・トゥ・バーのチョコレート」というものが、どんな味なのか気になって。食べてみたくなったんですよね。でも当時、ぼくの身近なところでは、そのようなチョコレートは手に入らなかったんです。
海野 2014年といえば、アメリカ発の動きが日本に紹介されはじめたころですよね。
田中 そうです。手に入れるためには、かなりの労力が必要でした。一方でそれは、自分と同じように、ビーン・トゥ・バーのチョコレートに興味を持ち「食べてみたい」と思っている人がいる、ということでもあると思ったんです。
海野 そうですね。
田中 コーヒーの世界では、サードウェーブ・コーヒーなどの波もあり、産地からコーヒー豆を仕入れて、自家焙煎して、こだわりの一杯を提供するお店が当たり前になってきていました。コーヒーの世界は変わってきているのに、子どもからお年寄りまで、男性や女性にかぎらず、コーヒー以上に多くの人が口にしているチョコレートは、どうして変わらないのかと。そのギャップにも違和感を覚えました。
海野 「チョコレートの世界もこれからきっと変わるはず」そんな思いもあったわけですね。
田中 はい。
海野 当時は、転職を考えていたのですか?
田中 いえ、そんなことはないです。仕事を辞めたいとはまったく思っていませんでした。それ以上に、「ビーン・トゥ・バー」のチョコレートに強く興味を持つようになったんです。